目指す未来から今を見つめ直す

 次は「目指す未来社会」をテーマに議論が交わされた。モデレータの神岡氏は「DXを進める上で、未来にどんな会社になっていたいかは根源的な問題です。DXというコンテキストで未来を読み解くとどうなるのでしょうか」と切り出した。

 小宮氏は「重工業の未来を語るのはとても難しい」としながらも多くのデータと技術を組み合わせてソリューションとしての価値を生み出す「コングロマリット・プレミアム」が目指すべき姿だと語る。「そのためには各レイヤーのデータや技術が知恵として整理されていて、本棚に並ぶ本のようになっていなければなりません。そのために整備を早く進めたい」と語った。

 自社が保有するデータや技術をデジタル化し、自在に活用できる環境を整備することで、組み合わせによって新たなソリューションを提供できるようになる。製造業の未来の姿の一つだろう。

日揮ホールディングス株式会社 常務執行役員
CDO (最高デジタル責任者) 花田 琢也 氏

 花田氏は「2030年からバックキャストしてアプローチしています。その一つが3Dプリンタによる建設自動化です。プラントは鉄のジャングルに見えますが、必ずしも鉄である必要はありません。3Dプリンタで造れる素材を使えば、横浜のオフィスからデジタルツインのボタンを押すだけで、砂漠にプラントを立ち上げることができるでしょう」と語る。

「そう考えると月面にボタン一つでプラントを立ち上げることすらできるようになります」と花田氏は夢を語る。そのために同社では今年から3Dプリンタを導入して、実践を始めた。まず国内でPoCを行い、それを海外、宇宙へと広げていくことになる。神岡氏は「人間は想像することで新しいものを作り上げてきました」と取り組みを評価する。

 定期的に未来マップを作って将来のビジネスを描いてきたという谷崎氏は「2025年にはこういう世界になるだろうというのが、コロナ禍で一気に早まりました。金融機関はお客さまが考えていることをどう支えるかというスタンスですから、やるべきことも状況によって変わってきます」と話す。

株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO 谷崎 勝教 氏

 今ではデジタル化に悩む中小企業を支援するためのSaaSも手掛ける。その中で今後大きな鍵となるのがサステナビリティだ。「デジタルは見える化を実現します。これからはカーボンニュートラルに向けて、サプライチェーンの中でのグリーンとデジタルの掛け合わせが求められていきます。それをどう支援するかも重要です」と谷崎氏。神岡氏は「金融機関の機能も再定義されつつあると感じています」と指摘した。

 物流もコロナの影響を大きく受けている。牧浦氏は「『YAMATO NEXT100』では、10年先のグランドデザインを掲げていましたが、コロナ禍の急激な環境変化により賞味期限が5年位に縮まりました」と話す。Eコマースの裾野が一気に広がったことで、同社が見据える全産業のEC化が現実味を帯びてきた。同社にはそれに質量で対応するバックボーンインフラの高度化が求められる。

「今後ますますデータ・ドリブン経営が求められますが、当社の一番の財産は約22万人の社員です。人間のアナログの力とデジタルの力でシナジーを出していきます。これからもお客さまに笑顔でお荷物をお届けできるようにしていきたい」と牧浦氏。神岡氏は「最後は人が幸せになるかどうかです。人とテクノロジーの関係を見直す時期にきているのかも知れません」と話す。

ヤマハ発動機株式会社 執行役員
IT本部長 山田 典男 氏

「ART fo Human Possibilities 人はもっと幸せになれる」を長期ビジョンとして掲げるヤマハ発動機では“パーソナルモビリティ”や“ロボティクス”を切り口に人間の快適な生活や豊かな社会に貢献する企業を目指す。山田氏は「2050年のカーボンニュートラルを目標とするとともに、世界中の様々な皆さんのニーズに応えていきたい」と話す。

 ハンディキャップを持った人にロボティクスを駆使したモビリティを提供することで可動性を広げるなど、誰もが安心安全に移動できる世界が実現されていくはずだ。「単に移動できるだけでなく、移動することが楽しく、そしてその先でも豊かな感動体験を提供する、感動創造企業を目指していきます」と山田氏は語った。

 菅原氏は「デジタルツインにしっかり取り組み、将来の予測などリアルではできないことをサイバー空間で補い、リアルでの生活をより豊かにすることを目指しています」と語り、その一環として2021年6月に名古屋市でデジタルツインを活用し、未来の街づくりへ向けた実証実験を開始したことを紹介した。

「昔のデジタルは粗かったためにデジタル化で失う要素もありました。近年は、テクノロジーが発展したことで、よりリアルに近い世界をデジタル空間上に再現できるようになりました。デジタルがアナログに近づいてきたということかもしれません。このデジタル空間上での分析や実証の結果などをリアルでの生活へフィードバックすることで、個人の生活もビジネスも豊かにできます。そういう世界をお客さまと実現していきたいと思います」と菅原氏は語った。