2025年までに生産性を6倍(2019年度比)にする−−。そんな目標を掲げているのが、東洋エンジニアリングだ。同社は「DXoT(Digital Transformation of TOYO)」と名付けたDX戦略を着々と進め、2022年にはすでに生産性2倍に達するなど、着実に成果を出し始めている。同社はどんな理由で「生産性6倍」という目標を掲げ、それを達成するためにどういったDXを行っているのか。東洋エンジニアリング DXoT推進部 部長の瀬尾範章氏に聞いた。
はじめに「生産性6倍」という目標を打ち立てた理由
大規模プラントやインフラ設備のエンジニアリング事業を行い、国内外合わせて約6000人のメンバーを抱える東洋エンジニアリング。同社の重要戦略DXoTのもととなる取り組みがスタートした2019年7月、責任者に任命された瀬尾氏は、なるべく早くこの戦略のビジョン・目標を定めようと考えた。
そこでまず設定したのが「生産性6倍」だった。2025年までに、2019年比で生産性6倍を目指す。はじめに数値目標を据えたのである。
「生産性の計算は各社色々とあると思いますが、私たちの場合、生産性を『粗利額/マンアワー(MH:仕事を1人で行った場合の作業時間を示す単位)』で捉えています。DXoTでは、生産性6倍を達成するために粗利額を3倍に上げ、MHを半分に減らす考え。MHに焦点を当てた理由は、私たちエンジニアリング業は生産設備を持たず、人材が資本のすべてと言えるためです」
大企業かつ人材が資本となっている業界で生産性6倍の達成は容易ではなさそうだが、それでもこの目標を掲げた背景にはこんな思いがある。
「DXの本質は変わることです。小難しい言葉ではなく、分かりやすくキャッチーな目標が必要だと考えました。実は当社が手がけるEPC(プラントやインフラ設備の設計・調達・建設工事)を含め、建設業の生産性は1950年から約1.1倍しか成長していないというレポートがあります。対して、製造業は約8.6倍に伸びている。建設業は労働集約型の産業であるなど、構造的に生産性が低くなりがちな傾向があるとはいえ、旧態依然とした仕事のやり方を引きずったまま生き残れる時代ではありません。変わりたいという強い思いを示すためにも、このビジョンを掲げました」
生産性6倍の実現に向けたロードマップやKPIを一通り2019年度に作成し、2020年度から本格的にDXoTタスク活動を始動。各部署がそれぞれ目標達成に向けて動いている。
具体的には、まず同社の“強み”となるコアコンピテンスを4つ(図1参照)定め、それぞれにDXを掛け合わせる方針だ。こうして、各コアコンピテンスにおいて利益の向上と生産性向上を図っている。すでに2022年時点で全体の生産性は2倍に向上しており、プロジェクト進捗率は約30%だという(図2参照)。