深刻な人手不足、グローバル市場での熾烈な戦い・・・。人材獲得競争が世界的に激化する中、少しでも優秀な人材を採用するために、日本の大企業は「新卒で入社し、人事異動を繰り返し、定年で退職する」という日本型雇用モデルからの脱却を急いでいる。日立製作所は2020年4月、これまで採用を担当していた部署を「タレントアクイジション部」に改称。新卒・既卒者の採用戦略を、“会社の一員”として働いてもらう「メンバーシップ型」から、特定の職務を遂行してもらう「ジョブ型」に大転換させた。その狙いや背景を、日立製作所タレントアクイジション部の進藤武揚部長に聞いた。
「採用」だけジョブ型にしても意味がない?
――なぜ日立製作所では「ジョブ型人財マネジメント」への移行を決めたのでしょうか。
進藤武揚氏(以下敬称略) 2009年の経営危機後、事業戦略を大きく転換させたことがきっかけです。国内売り上げが過半数を占める「製造業」として事業を展開していた当社は、「グローバル市場」で「社会イノベーション事業」を提供することを大きな方針として掲げたのです。
その結果、現在は、デジタル、グリーン、コネクティブを中心に多様な業種で社会イノベーション事業の拡大を推進しています。また、2022年度の海外の売上比率は全体の約62%と、大きな変革を遂げました。
グローバルに事業を展開するためには人事制度の変更も必須です。そもそも、「メンバーシップ型雇用」は日本独特の雇用システムであるのに対して、海外では欧米を中心に、「ジョブ型」で人財マネジメントが行われています。実際、当社の約32万人の社員のうち、およそ19万人を占める外国籍社員では、これまでもジョブ型人財マネジメントを実践していました。
ではなぜ、今、日本でも「ジョブ型」への移行が求められているのか。その理由は「グローバル市場における競争力の強化」に加えて、「人財獲得競争の激化」という観点もあります。
昨今最も求められているデジタル・AIの領域では、即戦力の人財の採用が不可欠です。しかし、彼らは技術がある分、「配属ガチャがあるのか」や、「やりたい仕事ができるのか」という観点で就職活動をしています。
また少子化の影響は深刻で、10年前には比較的容易にみつけることができていた優秀な人財も、現在では採用することが難しくなっています。初任給から多額の給与をオファーする外資系企業に競り負けてしまうという状況も生まれています。
優秀な人財ほど、主体的に「やりたいこと」にチャレンジすることができて、それに見合った報酬・環境を提供する企業を求めます。彼らは、配属リスクがあり、会社がすべての仕事をアサインする前提のメンバーシップ型雇用にはもはや魅力を感じていないのです。当社では、最も優秀な人財を獲得するために、ジョブ型採用を実施する、というワケです。
――具体的に、ジョブ型に移行するためには、どのようなプロセスが必要だったのでしょうか。
進藤 まずは、採用から退職に至るまで、すべての人事制度を見直す必要がありました。採用だけジョブ型に移行しても、「入社してみたら、話が違った」というミスマッチが生まれてしまいます。
人事制度を「採用→配置→育成→評価→退職」と一気通貫に捉えた場合、全体を俯瞰した上で、採用から退職までの一連の仕組みをジョブ型に沿ったものにしなければ、「採用」の最適解が見えてこないのです。
当社では、2012年度よりグローバル共通人財マネジメント基盤を構築するためにさまざまな施策を導入してきました。
当社32万人分の人財情報を把握するための「グローバル人財データベース」をはじめ、マネージャー以上の職責の大きさをグローバル統一基準で評価し、グレード付けを行う「日立グローバル・グレード」、レポートライン関係を明確にし,組織目標と個人目標のアライメントを確保する仕組みである「グローバル・パフォーマンス・マネジメント」、キャリア育成のためのスキル獲得を支援する「Hitachi University(e-ラーニングマネジメントシステム)」を導入。ジョブ型人財マネジメントを実現するための様々な仕組みを整えてきました。
2020年4月には、土壌が整備されたとの判断から、「採用」もジョブ型に移行させた、という経緯です。