パナソニック オートモーティブシステムズ 人事・総務担当 執行役員の大橋 智加氏(撮影:今祥雄)

 2022年4月に、パナソニックグループの持ち株会社制移行に伴いオートモーティブ事業会社として発足したパナソニック オートモーティブシステムズ。電子コックピット、運転支援システムなど自動車の電子デバイス・システムの開発・製造に特化し、売上高約1兆3000億円を誇るメーカーである。大変革期にある自動車業界で競争を生き抜くために必要な組織マネジメントのポイントと、今進めている改革の中身を、人事部門のトップに聞いた。

これからの製造業に求められる組織と人財とは

――電動化をはじめ、自動車業界は大きな変革の波に襲われています。そうしたときに必要な組織とはどのようなものだとお考えですか。

大橋 智加/パナソニック オートモーティブシステムズ 人事・総務担当 執行役員

1987年松下電器産業入社。本社人事部に配属され、以来20年間、人事情報システム、人事企画、幹部人事などを担当。2007年AVCネットワークス ネットワーク人事グループゼネラルマネージャーに就任。中国支社赴任を経て、2017年パナソニックコネクティッドソリューションズ(現・パナソニック コネクト)人事・総務担当常務に就任、2021年10月より現職。

大橋智加氏(以下敬称略) CASE(Connected:コネクテッド、Autonomous:自動運転、Shared & Services:シェアリングとサービス、Electric:電動化)というキーワードに代表されるように、自動車業界がかつてない変化に直面していることは事実です。

 しかし、顧客が求めるものを開発し、提供するという製造業の基本の部分は、いつの時代も変わりません。ですので、顧客に高い価値を提供し続けられる組織であることが大前提になります。

 これに加えて、必要になるのが社内外のさまざまなパートナーと協業しながら、開発を進められる組織であること。これまでのように顧客から仕様書が届き、それに合致した製品を作って納品するという製造業の仕事のスタイルは変化をしています。製造業には今、柔軟な開発体制への移行という大きな潮流が押し寄せており、その対応も必要になっています。

――そうした組織、人財に変えていくには何が必要だとお考えですか。

大橋 まずは変化の時代に勝ち残るために、経営トップが揺るぎないビジョンを示すこと。そして、それを現場に浸透させることです。同時に、ビジョンで示したことを実行に移す現場の高い柔軟性と対応力も必要になります。

 この両面がそろって初めて企業として持続的な成長ができると考えています。そのためにはトップダウンだけでも駄目。ボトムアップだけでも駄目。中途半端ももちろん駄目。いかに早く、変化に対応できる集団に変えられるかが、人事にも期待されていると思っています。

ものづくり人財の強みと課題は表裏一体

――そうした変革を巻き起こすために行っていることを教えてください。

大橋 人事部門として3つの方向性で取り組んでいます。この3つには、それぞれに強みとその裏返しとしての課題があると考えています。変革を成し遂げるには、これまでを全否定するのでなく、良い部分は伸ばし、足りない部分は新たに身に付けることが重要です。

 1つ目の強みがモノづくり現場力。当社は現場のモノづくりには自信をもっています。しかし、現場目線を重視し過ぎて、大局を見失うことにも注意が必要になります。経営がオペレーションに寄り過ぎて、長期的な戦略が不十分になることが課題だと思っています。

 2つ目がチームワーク・人財育成マインド。組織の能力の底上げを重視し過ぎて、個々の社員の自律性を阻害していないか。チームワークを重視するあまり集団の同質化が進み、多様な人財の意見や能力を生かしきれていない恐れがあります。

 3つ目が高品質を実現する技術力。これは行き過ぎると過剰品質となり、顧客のニーズに合わない製品になってしまう可能性があります。また、品質を最優先にすると、日本市場を中心に考えたり、自前主義に走ってしまったりという懸念が生じます。

 こうした課題は、高度成長期に築き上げた“勝ちパターン”が染み付いた弊害ともいえます。バブル崩壊以降、当社の売上は長期にわたって伸び悩んできましたが、この勝ちパターンに引きずられた人財マインドの問題も、要因の1つだと思っています。組織的にも、強みに注力し過ぎて、そこから生じた課題に気付かず、対処が中途半端になっていたという反省があります。ここを正し、新たな勝ちパターンを考えていかなければいけないと思っています。