社内の特定領域の成功事例を、いかに全社的に横展開していくか。これはデジタル・トランスフォーメーション(DX)にも当てはまる。むしろ、デジタル技術だからこそ展開に向いている面もあろう。人工知能技術などを駆使してカーエアコン用コンプレッサーの不良低減を果たした豊田自動織機の社員たちの「その後」を追ってみた。「デジタル技術の価値を理解できる人を育てる」という観点でDXを広めようとしている。
変革に終わりなし、打ち立てた技術を他部署へ
プロジェクトは、それだけを切りだせば「終わり」のあるものだ。成功する。根づく。失敗する・・・。終わり方はさまざまある。
一方、企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)で重要な視点は、初期プロジェクトで得られた成果を、企業内に展開していくことだろう。当てはめられる工程があれば当てはめていく。そうしなければ、トランスフォーメーションは初期プロジェクトに取り組んだ部署だけのものとなってしまう。
カーエアコン用コンプレッサーの不良を、後工程で発見することから、当該工程で予測して発見することへ。この一つのDXを果たした豊田自動織機は、他の製品のラインへの横展開に取り組んでいる。
横展開する上での課題もあった。生産ラインの工程設計などを担当する生産技術者たちに、いかにデジタル技術を取り入れてもらうかだ。この課題に取り組んできた井上雅昭氏が話す。
「製造ラインの現場で実際にダイカストなどの工程を担う作業者たちは、デジタル技術の導入に協力的です。私どもデジタル化推進部門の調査に対応してくれるし、場合によっては生産を一時ストップさせてもいいよと言ってくれる。不良率をいかに改善するかや、次工程の担当者にいかに迷惑をかけないかで、日々苦心していたわけですから。早く新たな技術を入れてほしいという要望が大きかった」
一方、そこまで響いていなかったように感じられたのが、生産技術者たちの反応だ。