トヨタ自動車 TPS本部 本部長 尾上 恭吾氏

 企業が利益を追求する上で重要な要素の1つにコスト削減がある。そこで長らく参考にされてきたのが「TPS(トヨタ生産方式)」である。徹底的にムダを排除し、原価低減を行う手法として知られるが、その本質をきちんと捉えきれていない人もいるだろう。TPS、そしてトヨタの考える「ムダ」とは何か。この記事では、トヨタ自動車 TPS本部 本部長の尾上恭吾氏にその意味を聞いた。

TPSの根底にあるのは「利益=売値−原価」

「TPSはトヨタの経営哲学であり、TPSと原価低減がトヨタらしさだ」。これは、トヨタ自動車社長の豊田章男氏が、ことあるごとに口にしてきた言葉だという。

 改めてTPSとは何か。全社にその意味を普及させてきた尾上氏は「1つ1つの問題を解決しながらムダを排除し、原価低減を行うもの」だという。

 企業は利益を出して存続していくことが不可欠だが、その利益をどう出すかがポイントになる。「製品の売値=原価+利益」と考えた場合、売値を自社だけで決めることができるなら、利益増も見込みやすい。

「しかし、それができるのは強い魅力のある商品か、オンリーワンの技術がある場合のみ。そこで我々は『利益=売値-原価』と捉えています。売値はコンペティターとの状況で決まる、あるいは顧客が決めるとも言えます。その中で利益を増やすには、原価低減が鍵になります」

 ではどうやって原価低減を行うのか。尾上氏は「製造業である限り、生産性を上げていくしかありません」という。

 トヨタの考える生産性は、以下の3つに分類される。 

1. 労働生産性(より少ない人数で)
2. 設備生産性(より安い設備投資、高稼働率)
3. 材料生産性(より安い材料、より高い歩留まり)

「3つトータルで生産性を向上させることが必要ですが、設備生産性と材料生産性は他社も真似しやすい。他社に追随を許さないのは労働生産性だと考え、我々は標準作業へのこだわりと絶え間ない改善で、労働生産性を上げていこうと思っています」