今春より新型クロスオーバーEV(電気自動車)「アリア」の納車を開始している日産自動車。そのアリアを生産する栃木工場は、1968年に稼働を開始してから「シーマ」「スカイライン」などの高級車を主体に半世紀以上の歴史を刻んできた古い工場だが、アリアの生産を機に最新鋭の生産ラインを持つ工場「インテリジェントファクトリー」へと転換中である。刷新を指揮した常務執行役員車両生産技術開発本部担当の平田禎治氏に、日産流DXの実相、そして日産が目指している生産現場の在り方について聞いた。
──新型EV、アリアの生産を行う栃木工場の「インテリジェントファクトリー」はDXを取り入れた革新的な生産ラインだそうですね。
平田禎治氏(以下敬称略) 今日、クルマの進化における2つの大きな柱となっているのが電動化と知能化です。日産はバッテリーEVをはじめとする電動化技術、将来の自動運転につながる運転支援システム「プロパイロット」など、進化に関わる技術を統合して「インテリジェントモビリティ」と銘打ち、いろいろなモデルを積極展開してきました。その最新のものが新型アリアなのですが、自動車産業ではクルマだけでなく生産工場のカーボンニュートラルや知能化も課題となっています。
日産の工場は生産開始から半世紀以上の歴史を持つ栃木や追浜(神奈川)など古い工場が少なくなく、それらは順次リニューアルの必要がありました。リニューアルといっても従来の設備を新しくするだけではなく、未来の日産車をつくる新しい技術を入れていこうと。そこで、せっかくやるならばアリアの生産開始を機に、カーボンニュートラルや知能化を統合した工場のインテリジェント化を大胆にやってやろう、というのがインテリジェントファクトリーを作った動機です。
──ファクトリーオートメーションにおけるDXといっても、中身は企業によって千差万別です。日産のインテリジェントファクトリーはどのような思想でデザインされたのでしょうか。
平田 最初に申し上げておきたいのは、私たちは最初から完全自動化ありきで工場をデザインしたのではないということです。遠い将来はともかく、人手を頼まないとできないという作業はこれからも相当の間、残ります。例えば、ボディの製造は既に自動化が進んでいるのに対して、パワートレインや内装など数にしておよそ3000点の部品の取り付けはほとんど人に頼っています。また生産設備の消耗や故障などに対応する保全業務も人がやることです。
人がやる部分として残っている作業は、高いスキルが要求されるものが多いのです。そういう作業に携わるスタッフが快適に働くことができ、スキルの向上ペースが上がり、作業ミスのプレッシャーからも解放されるといった、人間を中心に置いたDXになっていまです。