新規事業をいかに立ち上げ、イノベーション実現につなげるか。製造業をはじめ多くの企業が抱えるテーマだ。村田製作所インキュベーションセンター長で、PIECLEX最高技術責任者(CTO)の安藤正道氏は、開発のタネを事業化するには技術、タイミング、戦略も大切ながら、何よりハートが欠かせないと確信している。自らの実績と経験に基づく成功のための「新規事業の型」について聞いた。

技術、タイミング、戦略、そしてハートが欠かせない

――新規事業の立ち上げを促すための仕組み作りについて、どう重視していますか。

安藤 新規事業にチャレンジする機会を与える方が、社員たちにとってはそこに挑戦しやすくなるとは思います。

 村田製作所もこれまで、社員が新規テーマにチャレンジするための「みらいの扉」という制度や、部署を越えて同年代の社員が新商品·新規事業を企画する「世代別新商品企画」、また当時の村田恒夫社長に提案メールを直接送信する「Tsuneo Post」などの制度がありました。今は、これらの制度を統合して「創発活動」という取り組みに発展させているところです。

 こうした制度や取り組みがあれば、現業の仕事をしている社員も足を踏み込みやすくなるでしょう。実際、私も2007年に「みらいの扉」を利用して、圧電性ポリ乳酸という材料の研究とそのデバイスの事業化に挑み、製品にすることができました。

 けれども、そうした仕組みよりも、根本的に大切なことがあると思っています。それは、新たなことに挑む本人がどれだけのハートを持っているかです。ハートは情熱や覚悟と言ってもいい。

 私が今、村田製作所で所属している事業インキュベーションセンターは、開発のタネを事業化していくところですが、社員たちには「4つの要素」をそろえてきてほしいと伝えています。「技術」「タイミング」「戦略」、そしてもう一つが「ハート」です。技術はとても大切ですが、ハートこそ全ての源泉だと思っています。ハートだけは外部から持ってこられませんからね。

――ハートのある人から新規事業は生まれる、と。

安藤 ええ。これまでの私の経験からすると、技術のタネを集団で事業化していこうという例はあまり多くありません。むしろ、個人がこれを事業にするんだと動き始めたものの方が事業化に結び付きやすい。集団で取り組む場合、ハートが分散して行方不明になってしまうこともありますが、個人の場合はその人がどれだけ強いハートをもち続けるかだけですから。

 挑むと言い出したのは自分だし、絶対に成し遂げたいとなれば、壁にぶつかっても必死に考え続けることでしょう。