発売後1年足らずで世界1000万台を突破した「Play Station 5」の記憶も新しいエンタテインメント業界のグローバル・プレーヤー「ソニー」と、安全運転支援システム「Honda SENSING」など次世代技術を独自開発する自動車メーカーの「ホンダ」が、2022年に合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立。共同で新型EV(電気自動車)の開発に着手することを発表した。2023年早々には新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプ車を米国にて公開したが、はたして同社は100年に1度の大変革期と言われる自動車業界に、どんな新しい価値をもたらすのか。社長兼COOの川西泉氏に聞いた。

業界違いの「ソニー」と「ホンダ」が組んだ理由

 ソニー・ホンダモビリティ社長の川西氏は、取材冒頭に同社の成り立ちを次のように紹介した。

「ソニーとホンダは2022年9月、高付加価値EVの販売と、モビリティ向けサービス提供を行う新会社、ソニー・ホンダモビリティ株式会社を設立しました。当社はホンダの最先端の環境・安全技術をはじめとするモビリティ開発力、車体製造技術、およびアフターサービス運営等の実績と、ソニーのイメージング・センシング、通信、ネットワークおよび各種エンタテインメント技術の開発・運営の実績を持ち寄り、利用者や環境に寄り添い進化を続ける、新しい時代のモビリティとモビリティ向けサービスの実現を目指しています」

──なぜソニーとホンダなのか、両社のどんな強みを生かしていきたいとお考えですか。

川西 泉/ソニー・ホンダモビリティ代表取締役 社長 兼 COO

1986年ソニー入社。以後、プレイステーションやXperiaなどの商品開発に従事し、2014年、業務執行役員SVPに就任。2016年よりAIロボティクスビジネスを担当。aiboの開発責任者のほか、ソニーのモビリティへの取り組みであるVISION-Sを担当。2021年6月にソニーグループ常務、AIロボティクスビジネス担当に就任。2022年9月にソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役 社長 兼 COOに就任。現在に至る。

川西泉氏(以下敬称略) モビリティ業界はデジタルやソフトウェア技術の活用を目指す大きな変革期を迎えています。ソニーはその中で「モビリティ空間を感動空間へ」というビジョンを掲げ、モビリティを進化させたいと志しています。一方、ホンダもハードとソフトを融合させた商品への転換を推進しています。そこで過去の歴史的な生い立ちも近い両社が歩み寄り、生まれたのがソニー・ホンダモビリティ(以降、SHM)です。

 異業種の組み合わせですから得意不得意は当然ありますが、ホンダの場合は、自動車の製造技術、アフターサービスの長年の実績があります。その一方で、楽しさやエンタテインメントといったところの技術あるいはサービスは、ソニーが受け持つ部分が大きいかと思います。互いの強みを生かしながら、商品やサービスを考えていくつもりです。

 ただ、エンタテインメントも安心安全がないと成り立たちません。ホンダが提供する安心安全に、ソニーが持っているセンシング・デバイスや、イメージングの技術などを投入することで、より車の安全性能に寄与できると思います。将来的には自動運転といった分野にもつながると思っています。

ソニーとホンダの強みを生かして、モビリティ領域で新たな価値を創造する
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──異業種ゆえに両社のコミュニケーションも円滑に進むことばかりではないと思いますが。

川西 最初からお互いが理解し合えたわけではありません。業界が違うから社内用語も違いますしね。だから、分からないところは分からないと正直に言わなければ議論も進みません。分かった顔をするのが一番良くないのです。それをお互いに確認し合う時間は必要でしたし、今もあります。多様性を大切にしながら、自分たちの強みや分からないことを、はっきり出し合うことが結束力を高める基礎になりました。

 開発スピードへの意識なども両社で違いがあった部分です。自動車は型式認定なども必要で、開発から発売まで年単位でかかることもよくありますが、ITは年単位の開発では遅い。こうした違いを埋める努力も行ってきました。