日本の食を70年以上支える日清食品ホールディングス、NHK朝ドラ「まんぷく」の題材にもなったインスタントラーメンを知らない日本人はいないはずだ。決して今の位置に満足せずイノベーションにトライし「hungry?」と次世代を目指す姿勢に共感するユーザーも多い。そうした同社の躍動を支える人事のトップは、人事歴より経理やシステムの経歴が長いというユニークな人材だ。今回は「だからこそできた」人事の刷新や新たな視線を持ち込むことなど、未来の価値を生むための人材戦略の話を伺う。(インタビュー・構成/簗尚志)
会社の未来の価値を伸ばす人事とは
――コロナ禍の働き方やDXによる新たな価値創造のためのリスキリングなど、経営サイドから人事部門に期待することは従来とは大きく異なってきました。新たな価値創造ができる人材、それを可能にする人事とは、どう考えれば良いのでしょう。
正木茂氏(以下敬称略) 価値創造を考えるなら、私の財務経理の経験からまず会社の価値を説明させてください。例えば毎年15万円カネの成る木があったとして、これをいくらで買いますか? という命題を考えてみます。もし、この木が3年枯れずに毎年15万円が成り続けるなら45万円の価値がありますね。10年なら150万円です。つまりカネの成る木の価値は、どれだけ成っているか? 枯れずに何年生きながらえるか?が関係します。上手な庭師がいたら価値は上がりそうですね。
同様に会社の価値も次のような要素に分解して考えられそうです。①いっそう儲かること(1年当たり、できるだけ多く儲かること)、②いっそう儲かり続けること(できるだけ長く、儲かり続けること)です。私たちは通常ビジネスにおいて、売上を上げてコストを下げ、できるだけ多くの利益を残すこと(上記①番)に日々取り組んでいますが、会社の価値を上げるためには、どうやったら儲かり続けられるか? について考えること(上記②番)も同様に大切なことが分かります。
2014年に公表された伊藤レポート(伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とする、経済産業省の『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクトの最終報告書の通称)で、企業がグローバル投資家と対話する際にはROEは8%以上という数字が話題になり、日本中の企業がこれを目指しました。つまりROEが8%以上ならグローバル投資家にとって投資対象としての価値は十二分にあると言えるわけです。ROEとは、今年の利益を株主資本で割った数値です。カネの成る木で言えば、「今年カネがどれだけ成ったか÷カネの成る木の購入代」になります。
ROEは「効率」の指標なのですが注意してほしいのは、今期はROEが8%だったとしても来年以降もそうなるかはわかりません。ROEは昨年1年間の会社の儲かり効率を明示しただけなのです。先にお話したカネの成る木の価値を思い起こすと、どれだけ長く枯らさずに、毎年カネを成るようにするかが大切です。ここが会社の新たな価値創造には重要なポイントとなります。
2020年には人材版伊藤レポートが公表されました。そこでは「ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である」とし「企業の人材戦略は、(中略)持続的な企業価値の向上につなげていくことが求められる」と示唆しました。企業価値を増加するための戦略が経営戦略ですが、本レポートでは「持続的な」という言葉がキーワードになっている通り、「儲かり続ける」ことが大切で、その中心に「人材」が語られていると私は捉えました。
弊社の場合、人材には3種類あって、1番は既存エリアです。今の商品やサービスを今のお客様に届け続ける人材、2番は新しい商品を今のお客様に、今の商品を新しいお客様に対して届ける人材、3番は今は存在しない商品やサービスを新たに生み出してビジネスを起こす人材です。いっそう儲かる、いっそう儲かり続けるには、まずはこの3種類に分けることが必要だと思います。
そして必要な優秀さや能力は、それぞれ異なります。私たち人事部がやらなければいけないのは、それぞれに求められる社員の優秀さをきっちり定義して、その優秀さを集める、育てる、維持する、このことに尽きると考えています。