2020年、アメリカで上場企業の人的資本開示が義務化されたように、グローバルで「人的資本経営」へのシフトが加速している。従業員を資本として捉えて、一人一人の従業員の価値を向上させ、中長期的な企業価値の向上を目指す「人的資本経営」を実現するには、どのような取り組みが必要なのか。「従業員エクスペリエンス(EX)」を起点として、HRテクノロジーの活用で人的資本経営を実現する方法を、HRBrainの吉田達揮氏が紹介する。
※本コンテンツは、2022年6月29日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回サステナビリティ&ダイバーシティ経営フォーラム」のセッション「サステナブルな企業価値創造のための、人的資本経営とは」の内容を採録したものです。
「人的資本経営」へのシフトが強まる中で、求められてくる開示とは
「人的資本経営」では、従業員を資源ではなく資本として捉えて、積極的な投資で一人一人の価値を最大限に引き出すことを目指す。その背景にあるのは価値観の多様化、雇用の流動化といった「個人の時代」であり、その本質は「持続的な企業価値の向上」だと、HRテクノロジーで人事DXを支援するHRBrain執行役員EX事業本部 本部長であり、同社が運営するウェブメディア「人的資本TIMES」編集長の吉田達揮氏は語る。
人的資本経営が現在大きな注目を集めている領域である事実は、上場企業のIRに現れている。グローバルベースでみると、有形/無形資産の株価説明力における無形資産の割合は年々上がっており、投資家が重視するESG(Environment、Social、Governance)項目では、「人的資本」「経営理念」といった、人にまつわる領域への関心度が、環境項目よりはるかに高いという調査結果が出ている(生命保険協会「株式価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」)。
開示における人的資本の位置づけは「未来に向けた指標」だが、これには「定性化」と「定量化」の両面がある。定性化の部分は企業理念などと同様に、ステークホルダーに共有していくものだ。「人材版伊藤レポート」(持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会)で述べられているように、ここでは人材戦略と経営戦略の連動が、特に重要となる。また同時に、同資料で定義される「人材戦略に求められる3つの視点」「5つの共通要素」(上図)のような項目に対してKPIを設定し、あるべき姿へのギャップを定量的に捉えることが必要になる。
とはいえ、人的資本に関する情報を測定しており、なおかつ社外に開示・報告している企業はいまだ15%程度にとどまる。「人的資本経営と人材マネジメントに関する人事担当調査(2021)」(リクルート)によると、その開示情報も「網羅的に出しているだけ」と低評価なことが多い。
開示のための尺度を示すものとしては、「ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)」がある。組織戦略、組織風土、組織効率、組織開発(タレントマネジメント)の4領域に、「リーダーシップへの信頼」「エンゲージメント/コミットメント」「人的資本にかかるROI(Return On Investment:投資収益率、投資収益率)」「スキル開発のコスト」など58項目が設定されている。これらを「リスクマネジメント」「価値向上」という2つの観点から吟味すべきだと、吉田氏は言う。
「リスクマネジメントでは、定型フォーマット的な対応に重点が置かれる一方、価値向上の観点では、経営戦略にもとづく一貫したストーリーを持ちながら、いかに自社らしさを表現していくかが重要になるでしょう」