ダイバーシティ(多様性)の考え方は今や生活の中だけでなく、企業経営の上でも重要な価値観となっている。経済産業省も「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を打ち出し、多様な人材の能力を最大限に生かすことで日本経済の発展につながるとしている。味の素社では、2008年からWLB・働き方への改革を進め、第1フェーズと第2フェーズを経て、現在、第3フェーズとしてダイバーシティ&インクルージョン(D&I=多様性と包摂性)に取り組んでいる。同社の人事部人事グループD&I推進チームシニアマネージャーの小池愛美氏が、現在地を語った。

※本コンテンツは、2022年9月12日(月)に開催されたJBpress/JDIR主催「人・組織・働き方イノベーションフォーラム」の特別講演「味の素がダイバーシティ&インクルージョンを推進する理由とは」の内容を採録したものです。

激動の時代だからこそ求められるD&I

 VUCAと呼ばれる激動の時代にあって、ビジネスの環境は目まぐるしく変化している。「当たり前」が通用しなくなり、対応の遅れは持続的な成長の大きなリスクになる。世界の時価総額ランキングにおいて、1989年はトップ50のうち32社が日本企業であったが、2022年はたった1社となった。さらに業種別では、1989年には金融・製造・エネルギー業界が上位を占めていたものが、2022年では、製造業に代わってIT・通信、一般消費財などの業界が多くを占めている。世界で企業の勢力図が変化し、日本企業はそれに対応しきれていないように映る。

 味の素社が主要事業としている食品業界でも、コロナ禍の影響を大きく受け、この数年で大きな変化が生じているという。例えば、消費者は感染を避けるためネットスーパーで食材やミールキットを購入するなど、実店舗以外での消費へシフトが進む。また、個々の食へのニーズや価値観も多様化し、高級冷凍食品や1つの食品で1日の栄養が取れるような完全食品、植物由来の原料を用いる代替食品の登場、人気飲食店の味を自宅で楽しめる無人販売(自販機)の広がりなど、これまでなかった食品や販売形態が「当たり前」になり始めている。

 企業は、これらの多様な価値観に対応する必要が求められる。しかし、過去の成功体験を重視する画一的な組織では、失敗のリスク考えて新しい決断の1歩をためらう傾向がある。この課題を解決する一助となるのがD&Iだ。

 味の素社の人事部人事グループD&I推進チームシニアマネージャーの小池愛美氏は、D&Iを進めるに当たって「一人多様性の推進が鍵」と話す。

「多様性というと、性別や国籍などの属性に関する多様性が話題に上りますが、個人でも複数の経験やスキルを持つことで、1人の中での多様性を増やすことができます。1つの分野だけではオンリーワンやナンバーワンにはなれなくても、複数の経験とスキルをかけ合わせれば、オンリーワンやナンバーワンになれる。そのような多様な価値観や経験のある人財を組織に組み入れることで複数の目線で意見を交換でき、激動の時代でも適切な時期に正しい判断をすることができるはずです」