新型コロナウイルス感染症拡大やロシアのウクライナ侵攻は言うに及ばず、世界は予測が難しい不確実性の高い状況が続いている。こうした環境下では、企業が求める人材も変化せざるを得ない。2020年1月、経団連によりジョブ型雇用の導入が提言され、人事システムの見直しを検討する企業も少なくないだろう。しかし、リモートワークが一般化している昨今では、従業員のパフォーマンスを最大限引き出す経営や組織体制が不可欠だ。ジョブ型雇用の必要性と企業に求められる方針について、慶應義塾大学大学院教授の鶴 光太郎氏に話を聞いた。

※本コンテンツは、2022年6月16日(木)に開催されたJBpress/JDIR主催「第10回 ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演1「人の成長なくして企業の成長なし」の内容を採録したものです。

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日本の経済環境の変遷とメンバーシップ型雇用の限界

 日本を取り巻く経済環境は、1980年代以前と1990年代以降で大きく変化している。1980年代までの日本は、経済が安定的に成長し、市場の拡大が当然の時代だった。日本企業は少し先を行く欧米企業の戦略を模倣し、すでにある商品に磨きをかけるだけで売れていたため、成長するためにやるべきことが明白だった。加えて、若年層の人口が多く、若い労働力が潤沢に供給されていたため、需要に対して生産が追いつかなくなるようなリソースの課題も少ない。多くの企業が他社と同じ戦略を取り、同質的な商品を継続的に改良したり、大量生産したものを低価格で販売したりするだけでも十分に業績を上げることができた。

 当時は多くの日本企業が終身雇用、年功序列型の雇用・人事システムを導入しており、日本固有のメンバーシップ型雇用が一般的だった。新卒一括採用のもとで、職務や勤務地、労働時間が限定されず、従業員は勤続年数に応じてさまざまな部門に異動しながら経験を積むというスタイルだ。また、生涯面倒を見てくれる企業に対する従業員の帰属意識は高く、チームワークに優れた同質的な人材の集合体だったといえよう。このような企業体質では、従業員の思考や行動のベクトルをそろえることは容易だった。

 しかし1990年代以降、状況は一変する。バブル崩壊により日本の経済成長率は低下、少子高齢化の影響で労働力人口も減少し始める。また、サービス業の進化やインターネットが急速に台頭、それまで日本を支えていた製造業低迷の引き金を引くとともに、消費者の好みが多様化していく。それまで同じものが大量に売れた時代が終わりを迎える。鶴氏はそのような環境下で、従来の雇用・人事システムにも限界が訪れていたと述べる。

 「メンバーシップ型雇用では、組織への忠誠心やチームワークを重視する半面、同じ発想の人材が集まるという欠点があります。その結果、時代の変化に伴って周りと同じことをしているだけでは企業の成長が望めなくなり、抜本的なイノベーションや新たな付加価値を生み出す戦略の重要性が高まっていきました。必然的に、自律性と自立性を備え、前例にとらわれずチャレンジしていく思考を持った『尖った人材』が求められるようになります。そして、そのような人材を雇用・育成するために見合った制度がジョブ型雇用なのです」