企業は今、これまでの生産性や株主利益重視の路線から、転換期を迎えようとしている。企業に求められる価値は、従業員のウエルビーイングや社会とのつながり、コミュニティ創生を促進する方向へと動き始めたのだ。そうしたときに重要な鍵となるのが、従業員のワークスタイルとワークプレイス。今後、企業に求められる変革と、これからのオフィスの在り方について、カルダー・コンサルタンツ・ジャパンの奥錬太郎氏に聞いた。
※本コンテンツは、2021年12月1日に開催されたJBpress主催「第8回 ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演Ⅰ「企業変革の実現を目指すワークスタイル変革とは」の内容を採録したものです。
企業の生産性・利益重視から従業員の働きやすさ重視へ
米国を代表する経済団体ビジネス・ラウンドテーブルは、2019年8月に「『株主第一主義』を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組む」と宣言した。株主を重視した短期的利益を追求する従来の米国的なスタイルから大きく転換しようというのである。
この潮流により、従業員のウエルビーイング※向上やエンゲージメント増大、地球環境負荷の低減やポジティブ化、社内外におけるコミュニティ創生といった項目が、経営目標に追加されつつある。日本では、コミュニケーション・モードのカジュアル化も課題として認識され始めている。
※ウエルビーイング:身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念。「幸福」と翻訳されることも多い。世界保健機関(WHO)憲章の前文では、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態(well-being)にあることをいいます(日本WHO協会:訳)」とされている。
「このような目標を掲げることは、ロイヤルティーの増大、従業員の自己裁量の増大、ソーシャルキャピタルの増大や多様性の許容、前例主義からの脱却、組織のフラット化といった変化をもたらし、新たなワークスタイルの軸となっていくと考えています。その一方で、従来、多くの企業がミッションとして掲げていた生産性向上は、あえて表記しないことが一般的になるでしょう。従来の生産性向上は、実は従業員にとって直接的にメリットを感じられないものでした。しかし、先に示した5つの経営目標を達成していけば、必然的に生産性の向上につながると考えています」
こうした経営目標をもとに、ワークスタイルは固定的な概念から動的・フレキシブル・アジャイル的な概念へシフトしていくだろう。
例えば、午前9時〜午後5時の従来の「定時」から、いつでも働けるフレキシブルな時間を許容する方向へ向かいつつある。部署ごとに区切られたオフィススペースの占有意識も変わり、時々に応じて必要なメンバーが利用する共有型のオフィスが増えていくだろう。
業績評価も、プロセス重視から結果重視へ変化すると見込む。
「上司が部下を目視で管理するスタイルから、信頼ベースで、期待する成果を出せばプロセスは自由でよいというマネジメントスタイルに変わっていくと考えられます」
また、face to faceでのコミュニケーションが再評価されるだろう。
「メールよりも時短になり、コミュニケーションの質が上がるという点が改めて注目されています。意思決定が早くなるのも重要なメリットです。また、時間と場所、出席者を固めた長時間のフォーマルな会議から、その場その場で即興的なコラボレーションが行われるスタイルへと変化してきています。
それに伴い、仕事の進め方も変わると考えています。これまではタスクを1つずつ進めていたものを同時並行で行うようになり、スピード感が増すでしょう」
従業員のウエルビーイング重視の観点から、体調が悪くても頑張るという価値観も崩れてきている。仕事至上主義から、ワークライフバランスが重視されるスタイルに移りつつある。