※本コンテンツは、2021年9月1日に開催されたJBpress主催「第7回 ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演Ⅳ「自発性を持った企業変革の思想と実践」の内容を採録したものです。

 経営戦略論、組織論を専門とする経営学者の宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院准教授)は、日本企業の変革について「不確実な環境下での抜本的変革というよりも、既存事業の衰退や人口減少など緩やかで確実な変化の中で、さらなる悪化を防ぎながら一歩ずつ着実に変化を積み重ねることが求められている」と指摘する。具体的にどのように着実な変化を導いていけばよいのか。宇田川氏に聞いた。

日本企業の変革は、なぜ「難しい」のか?

 長期に渡るイノベーションの停滞が問題化する中、日本企業には変化へのスピードアップが求められている。しかし、宇田川氏は、次の3つの要因から「日本企業の変革の難しい状態に直面している」と話す。

 1つ目の要因は、日本の企業はVUCA(先行きが不透明で将来の予測が困難な状態)の中にあることも確かだが、むしろ課題は「緩やかだけど確実な変化」に対応できていないことにある点だ。例えば、少子高齢化は1980年代から「確実にくる」と分かっていた“緩やかだけど確実な変化”だったが、十分に対応できなかった。企業でも既存事業の賞味期限が切れていることが分かっていても、なかなか新規事業開発が十全に行われていない現状がある。

 2つ目は、日本企業は忙しさからくる「悪循環」が生まれがちであること。

「日本が低迷する要因は、IT化・デジタル化の遅れにあるともいわれていますが、業績が低迷している状況下で、その場しのぎでやらなければいけないことが増え、IT化・デジタル化が後回しになってしまっていることが背景にあります。こうした悪循環が企業変革の阻害要因になっています」

 3つ目は、日本企業の多くは「現状に大きな不満があるわけではない」ということだ。

「変革というのは、目前に迫った問題をすぐにでも解決しないと『経営できない』または『組織を維持できない』、だからこそ痛みに耐えて変革しようという流れから生まれます。しかし、多くの日本企業が抱えている問題は、長い目で見れば確実に悪くなるけど、現状に大きな不満はない。変革した先に明確な希望が見えているわけではない。そうした状態では変革に着手するのが難しい」