※本コンテンツは、2021年6月25日に開催されたJBpress主催「第6回 ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演Ⅱ「『バリューサイクル・マネジメント』~半径5mからのマインドシフト&デジタルワークシフト」の内容を採録したものです。

大きく広がっている格差はデジタルで挽回できる

 私は、日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社と、16年間企業に勤めていました。情報システムをつくり運用していく仕事と、広報・コミュニケーションの仕事に携わり、組織を活性化してきました。現在は、ITを使い、さらにコミュニケーションの方法を変えて組織を中から活性化していくことに重きを置き、組織変革・マネジメント変革、ワークスタイル変革の支援をしています。

 私はダムの近くで働く「#ダム際ワーキング」という「ワーケーション」の活動もしています。静岡県の自治体と一緒に、ダムという観光資源を使いながら、いかに生産性を上げていくか、働き方をアップデートしていくか、ひいては新たな地域活性のモデルを生んでいくか、チャレンジしています。

▼#ダム際ワーキング のサイト
https://damworking.com/

 最近、ワークスタイル変革の流れの中で「ワーケーション」がはやっていますが、「ワーケーション」や「テレワーク」を取り入れたら、そのまま「働き方改革」ひいては「ビジネスモデル改革」「地域活性」が実現できるわけではありません。

 業務を変えていく「業務改善」、さらには「採用・定着」「エンゲージメント」への取り組みや、「パラレルキャリア(複業)」「選択的週休3日制」「ダイバーシティー&インクルージョン」などグラデーションやバリエーションのある働き方の提供、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)」「イノベーション」と、さまざまなキーワードを立体的に解消していくことで、「ビジネスモデル改革」「地域活性化」が実現します。

 そのためには、経営の景色と現場の“景色”をどのように合わせていくか、どのようにコミュニケーションを変えていくかがポイントになります。

 まず初めにこれらの問題・課題やキーワードを立体的に捉えて解消するために、皆さんと“景色”を合わせていきたいと思います。

 私はこれまで350以上の地域、自治体、官公庁、企業の変革を支援してきました。その中で、現在では2つの格差が大きく広がっていると実感しています。

 1つ目は、大都市と地方都市の格差です。

 例えば、この1年半、COVID-19と向き合う中で都市部の企業は、いや応なしにテレワークのような働き方と向き合わざるを得ませんでした。

 しかし、地方都市ではCOVID-19の影響は都市部に比べて限定的なため、テレワークのような働き方をせずとも仕事は回ります。

 その結果、テレワークのような新しい働き方を経験した都市部の企業と、そうではない地方都市企業との間にワークスタイル変革の格差が広がっています。

 2つ目は、先進(敏感)企業とレガシー(鈍感)企業の格差です。

 大都市・地方都市にかかわらず、デジタルを使った新しい働き方、新しい稼ぎ方にシフトすることで収益力を高め、今までとは違う地域のお客さま・お取引先とつながり、新たなビジネスモデルを展開し始めている先進的な企業が増えています。

「リモートワークでは仕事が回らない」「中小企業だから」といって思考停止にならず、いかに考え方をアップデートしていくかが求められています。IT・デジタルは万人に公平です。地方にいながらフルリモートで他の都市の優秀な社員を見つけることも可能なのです。

「デジタルで挽回する」「デジタルでギャップを埋めていく」ことができるかどうかが、これから10年、20年と組織の格差につながってくると確信しています。

 そのためにも、マネージメントシフト&マインドシフトで新しいもの・考え方を取り入れることが重要です。企業の経営者・中間管理職・現場は、それぞれの身の回り“半径5メートル”の課題に対して風穴を開けるエクスペリエンス(経験・体験)をいかに生んでいくかが肝心です。

DXの成功には社内外のコラボレーションが不可欠

 半ばバズワードの感がある「DX」ですが、この言葉を因数分解してみたいと思います。

 DXとは、「D(デジタル)+X(トランスフォーメーション)」で、トランスフォーメーションは変革・改革という意味です。

 デジタルは手段であるため、情報システム部門やIT専門家に聞けば解決します。しかし、IT部門に丸投げしても変革は起こりません。

 トランスフォーメーションの主語・目的語は、あくまで各部門で起きている問題や課題です。IT部門や人事部門単独で問題・課題を解決するには限界があります。

 そのため、DXを成功させるには他部門とのコラボレーション、さらにいえば社外とのコラボレーション(越境)が不可欠です。

 デジタルを使いながら部門間の壁を越えていくためには、社内業務の電子化が欠かせません。「紙はオプション」ぐらいの感覚と、その感覚に乗っかる組織文化に変えていくような目標設定の仕方が大切です。

 例えば、飲食や介護、建築現場で、モバイルデバイスの活用によって業務効率化や新たな売り方(ビジネスモデル)を実現した事例は枚挙にいとまがありません。スマートデバイスとクラウドサービスで、どうやってお客さまに価値を提供していくか、どうやって今までとは異なる売り方をしていくかが求められます。

 つまり、「サービス・ライフサイクル・デザイン」の発想で考えていく視点が大事です。変革のためには、過去志向ではなく未来志向で考えられる人を強化していくような発想がDXを成功させると考えています。

固定化された働き方から新しい発想は生まれない

 私は、DXにはデジタルトランスフォーメーションの他に、デジタルエクスペリエンスという意味もあると考えています。つまり、「デジタルの体感・体験」です。

 日本の大組織においては、最新のデジタル機器やデジタルサービスを使う経験が圧倒的に不足しています。いまだにコミュニケーション手段がメールだけで、ビジネスチャットも使ったことがない企業も少なくありません。

 最新デジタルツールを使うことで、どのようなコミュニケーションの広がりを生むか、あるいはどのようなアイデアを形にできるかといった経験が少なければ、DXなど起こりません。例えるならば「今まで食べたことがない食材を使って料理をつくってください」というぐらい無謀なことです。

 初めは小さなデジタルの経験を増やすことが大事です。まずは身近な不便を解消することからで構いません。例えば、お客さまとのコミュニケーションが煩雑であれば、デジタルツールを導入することで過去の履歴を閲覧できるようにするなど、「デジタルで楽になった」という体験を増やすことです。

 DXの本質は「デジタルの力で固定化された環境から解き放たれる」こと。毎日、同じメンバーで、働く時間・仕事内容・行動パターンまで同じ人間同士が集まっている環境で、新しい発想は生まれるでしょうか。世の中の動きをキャッチアップできるでしょうか。

 私は難しいと思います。DXの本質は、デジタル故に時間や場所の制約から逃れる、空間を超えて他の地域の人とつながることによって、新たな課題の解決策やビジネスモデル、働き方を生んでいくことです。

 皆さんの半径5m以内で人の動きを固定してしまっているものは何でしょうか。このような観点から考え始め、周りの人と問題・課題の景色を合わせていってはいかがでしょうか。

組織変革に向けて経営者と現場に求められること

 経営者や中間管理職、現場のそれぞれが自分たちだけで悩むのではなく、問題・課題に名前を付けて景色を合わせ、他部門とコラボレーションして立体的に解決していく。それが、バリューサイクル・マネジメントです。

 まずは半径5mの最小単位で、「本来価値創出」「業務改善」「育成・学習」のコアサイクルを回すことから始めてください。

 そして、社内の他部署とつながって新しい価値を生み出す。正しい成長欲求や能力を持つ人たちが正しく活躍できるように、デジタルを使い、制約を取り払って滑らかにこのサイクルを回していくのです。

 最後に、DXの初めの一歩として、経営ができること、現場ができることをそれぞれに示したいと思います。

 まず、経営には何よりITと育成への投資が必要です。社員のスキルアップ、マネージャーのマインドシフトも含めて投資し、デジタルエクスペリエンスを社内に増やすことが重要です。そのためにも、社内の変革人材が報われるような採用・人事評価制度の刷新が必要です。変化・成長を拒む人材にも育成の機会を提供し、それでも変化を拒む人には厳しく処遇していく、そうしたアメとムチが大事ではないでしょうか。

 そして、現場では、半径5m以内の問題・課題を言語化して景色を合わせることが求められます。他部署・経営と小さなデジタルワークで、その課題を解決する。少しの成長体験、気持ち良くなった快感や体験を創出し、さらにそこからデジタルの広がりを増やしていくことが必要です。

 最近では組織の景色をどう変えていくか? 皆さんのご相談やご質問にお答えするオンラインのコミュニティ『沢渡あまねマネジメントクラブ』も展開しています。

 このような「つながり合う場」も活用しながら、半径5m以内から景色を変えていきましょう。

▼ご参考
沢渡 あまね著『バリューサイクル・マネジメント』