DXの成功には社内外のコラボレーションが不可欠
半ばバズワードの感がある「DX」ですが、この言葉を因数分解してみたいと思います。
DXとは、「D(デジタル)+X(トランスフォーメーション)」で、トランスフォーメーションは変革・改革という意味です。
デジタルは手段であるため、情報システム部門やIT専門家に聞けば解決します。しかし、IT部門に丸投げしても変革は起こりません。
トランスフォーメーションの主語・目的語は、あくまで各部門で起きている問題や課題です。IT部門や人事部門単独で問題・課題を解決するには限界があります。
そのため、DXを成功させるには他部門とのコラボレーション、さらにいえば社外とのコラボレーション(越境)が不可欠です。
デジタルを使いながら部門間の壁を越えていくためには、社内業務の電子化が欠かせません。「紙はオプション」ぐらいの感覚と、その感覚に乗っかる組織文化に変えていくような目標設定の仕方が大切です。
例えば、飲食や介護、建築現場で、モバイルデバイスの活用によって業務効率化や新たな売り方(ビジネスモデル)を実現した事例は枚挙にいとまがありません。スマートデバイスとクラウドサービスで、どうやってお客さまに価値を提供していくか、どうやって今までとは異なる売り方をしていくかが求められます。
つまり、「サービス・ライフサイクル・デザイン」の発想で考えていく視点が大事です。変革のためには、過去志向ではなく未来志向で考えられる人を強化していくような発想がDXを成功させると考えています。
固定化された働き方から新しい発想は生まれない
私は、DXにはデジタルトランスフォーメーションの他に、デジタルエクスペリエンスという意味もあると考えています。つまり、「デジタルの体感・体験」です。
日本の大組織においては、最新のデジタル機器やデジタルサービスを使う経験が圧倒的に不足しています。いまだにコミュニケーション手段がメールだけで、ビジネスチャットも使ったことがない企業も少なくありません。
最新デジタルツールを使うことで、どのようなコミュニケーションの広がりを生むか、あるいはどのようなアイデアを形にできるかといった経験が少なければ、DXなど起こりません。例えるならば「今まで食べたことがない食材を使って料理をつくってください」というぐらい無謀なことです。
初めは小さなデジタルの経験を増やすことが大事です。まずは身近な不便を解消することからで構いません。例えば、お客さまとのコミュニケーションが煩雑であれば、デジタルツールを導入することで過去の履歴を閲覧できるようにするなど、「デジタルで楽になった」という体験を増やすことです。
DXの本質は「デジタルの力で固定化された環境から解き放たれる」こと。毎日、同じメンバーで、働く時間・仕事内容・行動パターンまで同じ人間同士が集まっている環境で、新しい発想は生まれるでしょうか。世の中の動きをキャッチアップできるでしょうか。
私は難しいと思います。DXの本質は、デジタル故に時間や場所の制約から逃れる、空間を超えて他の地域の人とつながることによって、新たな課題の解決策やビジネスモデル、働き方を生んでいくことです。
皆さんの半径5m以内で人の動きを固定してしまっているものは何でしょうか。このような観点から考え始め、周りの人と問題・課題の景色を合わせていってはいかがでしょうか。