多くの企業ではES(Employee Satisfaction)の向上や働きがい向上への取り組みをしており、昨今ではHRテクノロジーの一部として従業員満足度調査や働きがい実態調査を簡便に高頻度で行うアプローチも盛んになってきた。
そうした中、取り組みに手応えを感じている企業に共通するポイントを見ていくと、実はそれはツールやテクノロジーではないことが分かっている。ESや働きがいを「経営の柱」として位置付け、トップから現場まで一貫かつ継続した取り組みを行っている点が共通するポイントになっているのである。
そして、成功企業の中には「働きがいを組織の力の源泉にしよう」という意識のもと、一歩踏み込んで「EX(Employee Experience)」という考え方でトライしている例も出てきた。これは働きがい向上のために、制度改革や職場風土の変革にとどまらず、従業員一人一人の「体験」に焦点を当て、互いが良い体験を生み出し合うよう取り組んでいる例である。
その一方で、働きがいを「人事問題」と狭く捉え、「とりあえずの意識調査」として取り組んでいる企業では、「調べてはみたが、明確な変革につながらなかった」との声が多く聞かれる。満足度調査や実態調査を行っても、調査結果を活用する仕組みや組織体質が整っていない企業では、早くも「調査のマンネリ化」が起こっているのだ。
このコラムでは、これまでの働き方改革や従業員意識調査と何が違うのかを含め、経営実務と学術の観点から「先端」の姿を、2回にわたって紹介する。今回は前編として、企業経営実務の視点からニチレイロジグループと持ち株会社(ホールディングス)のニチレイでの取り組み事例を見ていこう。
※このコラムは(株)日本能率協会コンサルティング主催のオンラインシンポジウムの講演内容を再編集した。
講演者:株式会社ニチレイ
執行役員 人事総務部長 狩野 豊 氏
1988年、ニチレイに入社。2005年ニチレイグループ分社化に伴い、ニチレイロジグループに移籍し、人事担当としてグループ会社全体のES(従業員満足)向上の取り組みを始める。2011年よりニチレイロジグループ本社人事部長となり、ESを発展させた「働きがい」をテーマに、働きがい向上の取り組みを続けた。2014年に株式会社ニチレイの人事総務部長として、サイコメトリクスを活用した新たな調査手法を活用しながら、働きがい向上を継続的に実践。2017年に執行役員となり、現在に至る。