外部環境変化に先駆けて立案する

 新型コロナウイルスにより新たな事業が生まれ、消費者の行動様式が変化したことは、企業経営における外部環境変化への事前の備えと、その変化を捉えた迅速な対応を取れる組織能力の必要性を明らかにした。

 同時に、顕著となったDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展とデジタル技術の普及は、新しい競争ルールを生み出し、参入障壁の低下を通じて、新規参入者のシェア獲得の機会となっている。

 過去に、業界構造が大きく転換した顕著な事例は、フィルムカメラからデジタルカメラへの転換であろう。カメラ業界に新規参入が相次ぐとともに、撤退するプレイヤーも現れた。

 近年では、自動車業界において、CASE(Connected〈コネクティッド〉、Autonomous/Automated〈自動化〉、Shared〈シェアリング〉、Electric〈電動化〉)の進展により、業界構造自体が大きく変わろうとしている。

 本連載の主題であるサステナビリティ経営の視点で捉えると、このような環境変化に対し、DXなどトレンドワードに飛び付く前に、改めて自社の経営理念を踏まえ、自社が提供する社会価値を定義し、長期ビジョンを描いた上で、外部環境変化に先駆けた成長戦略を立案することが重要である。

 昨今、関心を集める経営理論である「両利きの経営」の中で、「コンピテンシー・トラップ」という考え方が紹介されている。既存事業分野に適合を目指すことを「知の深化」と呼ぶ。この「知の深化」が増大すると、新しい環境適応に拒否反応を示してしまう。「コンピテンシートラップ」とは、外部環境変化に気付いていながら、既存事業の慣習や方法論にしがみ付き、いわば自己壊滅的になってしまう状況を指す。

「知の探索」を怠ってしまうと、中長期イノベーションが枯渇していく恐れがある。このトラップに陥らないために、常に「知の探索」を行い、外部環境変化情報を取り入れ、自社の能力拡張を図る重要性を示している。

 成長産業が多くあった時代は、選択と集中が経営テーマであった。しかしながら、現在、多くの産業が成熟化する中で、産業自体のパラダイムシフト、業際の融合が進んでいる。このような事業環境において、既存事業の絞り込みではなく、既存事業の深化と新規事業の探索を両立する、「二兎を追う」経営の重要性が増している。