戦略ストーリーを共有する

 実際に長期ビジョンや成長戦略を検討する場合、多様なメンバーが参画したワークショップ型の検討を行うことが有効である。

 その際には、自社のミッションと社会ミッションとを踏まえて、従来の社会価値軸から新しい社会価値軸へ「変わること」に焦点を当てた議論にフォーカスする。

 特に、過去の事業成長を牽引してきた世代の方々は、成功体験に意識・無意識にとらわれてしまいがちである。事業環境の変化を認識していても、従来の思考様式、行動様式を変えることができず、社内の新たな取り組みが立ち消えてしまう。歴史的に安定した業界や企業ほど、過去の成長が「変わること」への足かせとなっている。変わることに焦点を当て、変革の意思を示すことが必要である。

 立ち返るべきは、自社の社会に対する存在意義、提供価値である。

 自社の活動を通じて社会をどういう未来に導いていくのか。この観点を踏まえ、長期ビジョンを定めることが重要になる。例えば、ファーストリテイリングはサステナビリティステートメントに「服のチカラを、社会のチカラに。」と定め、その意図を「よい服をつくり、よい服を売ることで、世界をよい方向へ変えていくことができる。」と解説している。

 このビジョンステートメントを起点とし、サステナビリティを事業戦略の中核と位置付け、「PEOPLE」「PLANET」「COMMUNITY」における課題解決と新たな価値創造をテーマに掲げている。よりよい社会を実現するために、自社を変革していく指針を示すことが、社会に受け入れられ、応援される企業への入り口となる。

 そして、社会に対する、自社の存在意義を明確化し、その長期ビジョンを実現するための戦略ストーリーを構想し、社会変化と事業ロードマップを策定する。

 この検討過程を通じて、従来の延長線上で伸びることに加え、今までと考え方・やり方を変えること、新しく取り組みを始めることを、全社員が共通認識を持つことが重要である。

 全社員が同じ方向性を向くことで、事業活動自体もフォーカスが定まる。自社のミッションと社会ミッションとを起点とすることで、独自の競争戦略を立案することが期待されるのである。

コンサルタント 栗栖 智宏(くりす ともひろ)

日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティング事業本部 経営戦略センター センター長
チーフ・コンサルタント

2006年JMAC入社以来、製造業を中心に100社以上の改革活動を支援。経営計画や事業計画策定を中心に、多数の収益改革や業務プロセス改革の支援実績を有する。また、新規事業創出支援も手掛けるなど、事業全般のテーマに対するコンサルティングを展開中。