新しい手法でグループ会社に展開
狩野氏は、その後、2014年に株式会社ニチレイに異動してからも、働きがいを高める取り組みを継続した。株式会社ニチレイはグループ全体の企画部門やシェアードサービス等を担う持ち株会社である。
2000年ごろから従業員意識調査は行っていたものの、ESや働きがいについて必ずしも意識が高いとはいえなかった。そこで、働きがい調査の目的を「気づきの仕組みにする」と再定義した。従業員の意識の変化を経営層が気づくだけでなく、従業員が自らの働きがいや取り組むべき課題に気づいてもらえるような仕組みにした。
その際に、サイコメトリクスという心理統計手法を活用した調査を導入した。これまでは1設問ごとに対策案を考えていたが、サイコメトリクスを通じ、「仕事を通じた貢献実感」「職場内のコミュニケーション」など働きがいの構成要素ごとに得点化したことで、どのようなテーマに取り組むべきかが分かりやすくなった。
全社活動へ深化させるために
一方で、株式会社ニチレイでは従業員の満足度は比較的高かったため、基礎的な問題解決にとどまらず、さらなるレベルアップのための対策案の具体化が課題となっていた。各部署で推進委員を決め、その委員が参加する働きがい共有会議を行うなど取り組みはしていたが、部署間を越えた全社活動にはなっていなかった。
そこで、人事総務部では3つの工夫を行った。
1つ目は、人事評価項目に追加することだ。働きがいの取り組みを目標管理の中に掲げ、人事評価項目として明確に位置付けた。これにより評価につながるほど重要な取り組みなのだ、という認識が生まれた。
2つ目は、部長層の巻き込みである。現場での改善取り組みの内容が、部長層まで伝わっていない部署もあった。部長層全員を働きがい共有会議のアドバイザーに据え、消極的・後ろ向きな姿勢の部長には事務局が個別に面談を行い、部署全体の改善活動を活性化させた。
3つ目は、働きがい共有会議の中でワーキンググループを作り、全社横断テーマに取り組んだことだ。部署間の壁を越えて連携し、課題解決を行う組織文化を作ることも念頭に置きながら、テーマを決めて活動している。例えば、「コロナ禍での働き方」「働く場としてのオフィスレイアウトの在り方」「副業推進のためのボランティア活動などの情報収集」など、本来は人事総務が関わるテーマが多いが、現場の目線で実行力の高いアイデアもたくさん出たため、人事総務メンバーの刺激にもなった。
このように株式会社ニチレイでは、調査の結果をフィードバックして終わりにするのではなく、その結果を具体的な活動につなげることを意識して取り組みをしてきた。こうした取り組みには魔法の手段があるわけではない。一つ一つを愚直に、コツコツとやっていくことが鍵だと感じている。