※本コンテンツは、2021年5月25日に開催されたJBpress主催「第1回 経営企画イノベーション」の特別講演Ⅱ「トランスフォーメーションの時代とプロフェッショナル経営参謀の役割」の内容を採録したものです。

経営アジェンダが「より大きく・長期的に・複雑に」変わっている

 私は、2001年にボストン コンサルティング グループ(以下BCG)マネージング・ディレクター&パートナーに昇進しました。2006年11月から日本オフィス統括責任者となり、2016年1月から2020年12月末日までの間はBCG日本代表を務めていました。

 日本オフィス統括責任者として活動していた2006~2013年には、リーマンショック、東日本大震災など大きな出来事がありました。そうした大きなショックを受けて、われわれが経営層に提供するコンサルティングの中身は大きく変容してきました。

 一言でいえば、中期経営計画や事業戦略など個別テーマだったものが、「より大きく、より長期的に、より複雑に」、そして「戦略プランの構築から、大きなインパクトを生み出すための支援」に大きく変わっています。10年くらいの時間軸の中で企業がどのように再成長できるための組織にトランスフォームしていくのか、それをサポートする機会が多くなりました。 

長期的なトランスフォーメーションに必要な2つのステージ

 ビジネスの領域では、経営の前提条件を大きく揺るがすようなショックが「高頻度に、ダイナミックに、予見しにくい状態で」起きています。現時点におけるショックはやはり「コロナ禍」ですが、このコロナ禍が終わっても近い将来、次のショックがまたやってくるでしょう。

 こうしたショック(=変化)に対応するためにも、経営のミッションは「持続的イノベーションと破壊的イノベーションを両立させ、将来の持続的成長の基盤になるコア事業を探索し、構築すること」であると考えられます。その実現のためには「今日の競争からキャッシュを得る」「未来の創造のための基盤に投資する」、この2つのステージに同時並行的に着手し、継続的に乗り越えていける企業に生まれ変わる取り組みが必要です。

 具体的な戦略ポイントとしては、以下が挙げられます。

時間軸のマネジメント
・トランスフォーメーションは「10年の時間軸・3ウエイブ」(後述)で、同時並行で回す
・今のポートフォリオで、将来に投資できるキャッシュを生み出す
・長期のジャーニーの期間ずっとキャッシュフローをつなぎ続け、成長のチャンスが訪れるタイミングまで耐える
・レンズから見える景色は時間の経過ととともに徐々に変わり定まるもの。その間は柔軟にピボットし続ける

市場創造戦略(not競争戦略)
・将来は不確実で完全には見通せないが、いつかは訪れる未来を信じて投資する
・新しい顧客、新しい需要、新市場創造の視点でチャンレンジを続ける。レッドオーシャンに陥らない
・業界外のディスラプターの脅威に目を凝らし、自社が自ら未来をつくるチャンスに変える
・市場立ち上がりの「S字カーブの前倒し」で自ら需要を創造する

パーパス・戦略・価値基準・カルチャーのアラインメント
・パーパスに戦略をアラインさせ、ビジョン、ミッションを刷り込むことで、暗黙知としての行動規範につながるカルチャーに昇華させる
・訴求力のあるキャッチフレーズで、目指す未来の世界観を示し、全ての戦略的要素、変革ポイントとリンクさせる
・今日的にはESG経営、サステナビリティーへの貢献を成長戦略とリンクさせたシナリオづくりが鍵

新たなコアケイパビリティーの獲得
・M&Aやデジタルエコシステム、ベンチャーとのJV(共同企業体)などで新たな人材とケイパビリティー(組織能力)を獲得する
・事業戦略と財務戦略と投資戦略を統合させることで、効果的なステイクホルダーマネジメントの能力を備える
・変革をハンズオンで主導するトップ、それを支える経営参謀、実行を推進するリーダーから成る未来志向かつ最適なトランスフォーメーションチームを組成する

10年の時間軸で「3ウエイブ」でシフトさせ続けることが重要

 先ほどの戦略ポイントの中で「10年の時間軸・3ウエイブ」というキーワードを挙げました。これについて補足します。

 今の時代、一つのトランスフォーメーションを成し遂げるには「10年の時間軸」で考える必要があります。しかし10年先までには新たな事業・新たなポートフォリオへと変えていく、新しいコアコンピタンスを獲得していく必要があります。

10年の時間軸・3ウエイブ
①コア事業のディフェンス
②成長事業へのリモデル
③成長オプション・ネタの創造

 直近で、今の事業の中で徹底して稼ぐための投資(①コア事業のディフェンス)を行い、そこで得たキャッシュを一定程度市場の成長が見通せる領域への投資(②成長事業へのリモデル)に使う。それと同時に、10年先を見据えたR&D的な投資(③成長オプション・ネタの創造)で、将来のコア事業になり得る領域を探索する。

 10年の時間軸で企業の収益基盤と将来の成長を支える投資領域のポートフォリオを構築し、企業が変革していく3つのウエイブを意識しながら、事業ポートフォリオをシフトさせ続けることが重要です。

プロフェッショナル経営参謀の仕事とはどのようなものか?

「先が見通せない」「成功確率が読めない」、しかも「変革が長期にわたる」ということを前提に推進するとなると、このように長期的なトランスフォーメーションには、経営者のリーダーシップがなにより重要です。そして、リーダーの思考の幅を広げ、本質的に何の意思決定を行うべきか助言する「経営参謀」という存在も極めて重要になります。

プロフェッショナル経営参謀の仕事
・議論すべき課題と論点の見立て(適切な課題設定と論点の粒度を見極める)
・意思決定プロセスのデザイン(意思決定のメカニズムを読み、プロセスを組み立てる)
・議論の誘発(考えさせられる材料と質問の突き付けで刺激する)

 中でも「課題の設定能力」は非常に大切で、設定される課題には「その企業にとって固有である」「次に何らかのアクションにつながる」「先々を見通した環境変化に対応し得る」「俯瞰的かつピンポイントである」「今、解くべき課題が設定されている」「議論が生まれやすい」といった条件が求められます。そのため経営参謀には、下記のような視点・能力も求められます。

●プロフェッショナル経営参謀に求められる視点
・変化が激しく、先を見通せない時代のかじ取り役
・今の競争と明日の競争をつなぐ「時間軸」の概念
・分析やロジカルシンキングだけに頼らない想像力
・自分には見えない世界があることを認める素直さ
・多様な価値観や考えに対する理解力と柔軟性

成功は危機感と変化への渇望感にかかっている

 経営参謀としての能力を向上させるには、経験に尽きる側面もあります。しかし、それらの経験の機会は、誰にも平等に用意されており、ポイントは目の前の「出会いの機会」に気付き、つかみ、それを学習へとつなげられるかどうかです。下図は学習力を磨く「ダイヤモンドループ」と私が名付けたものですが、この図のように「きっかけ→機会→経験→学習」のサイクルを回すことで、経営参謀としての能力も向上していきます。

 企業において、トランスフォーメーションが始動するきっかけはさまざまです。「新しいリーダーの誕生、あるいはリーダーシップ構造の変革」「コア事業を支えている“読める市場”のシュリンクへの脅威」「デジタルディスラプターの登場と脅威」など、さまざまなきっかけがあります。いずれにせよ、企業そのものが「今の環境に対して」「自分たちに対して」「将来の変化に対して」どれほどの危機感を持っているのかにかかっています。

 そして「世界がテクノロジーによってこんなに変わる」「それらの変化によって自社にはこんなチャンスが生まれる」、そんな変化への渇望感が、企業カルチャーとして醸成されていけば、そこからトランスフォーメーションへの期待が高まり、始動します。企業には今、長期的トランスフォーメーションが求められており、それを推進するのは企業のリーダー、そしてプロフェッショナル経営参謀です。