※本コンテンツは、2021年7月29日に開催されたJBpress主催「第2回 ファイナンス・イノベーション」の特別講演Ⅱ「企業価値を高めるファイナンス思考とDX」の内容を採録したものです。

ミクシィの事業再編で感じたファイナンスの4つの課題

 私は大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、大学時代に友人と創業したスタートアップに出戻りし、その会社の売却に伴いミクシィへ入社。ミクシィでは事業の再編に従事しました。その後、スタンフォード大学での客員研究員を経て、現在はシニフィアンを創業し、グロースファンドなどを運営しています。今回は、企業が長期的な視点で価値を最大化するために必要なファイナンスの考え方を、日本企業が陥りやすい“PL脳”といった思考の癖と対比しながら解説します。

 mixiは、日本のSNSの先駆けでした。しかし、2010年ごろからTwitterやFacebookなど新規サービスの出現で業績が伸び悩み、時価総額も大きく下がりました。そうした中、私は2013年に代表に就任しましたが、ゲームのヒット、事業買収の成功、不振事業の売却といった施策が奏功し、業績、時価総額ともに回復を実現することができました。

 ファイナンス的観点から振り返ると、当時のミクシィには大きな課題が4つありました。1つ目は、私の代表就任当時、ミクシィは時価総額180億円ほどの会社であり、小型株化してしまったことで、資本市場を十分に活用できていなかったこと。2つ目は、儲けに対する意識が弱く、既存事業が恒常的な赤字に陥り、事業を通じた資金の創出ができていなかったこと。3つ目、これが特に問題だったのですが、上場以来の黒字経営で保有する現金は多かったものの、未来に向けた投資ができておらず、お金を有効活用できていなかったこと。4つ目は、株主の利益に対する意識が十分ではなかったことです。

 以上の課題感を踏まえつつ、拙著『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』(ダイヤモンド社)の内容に即して、企業価値を高めるDXに言及します。