ファイナンス思考とPL脳はどこがどう違う?
PL脳は造語ですが、「売り上げや利益といった損益計算書(PL)上の指標を、目先で最大化することを目的とする思考や態度」と定義しています。PL脳には、次のような問題点があります。
まず、PLはキャッシュとイコールではありません。事業が赤字でもキャッシュがあれば会社を存続できる一方、黒字であったとしてもキャッシュが尽きれば会社は倒産します。さらに、PLは解釈によってつくることができます。売上高を前倒しで計上したり、原価を資産に計上したりして粗利を大きく見せるなどがそうです。「利益は意見、キャッシュは事実」です。PLは重要な指標ですが、キャッシュの観点からダブルチェックする必要があります。
次に、PL脳で問題なのは、資本コストが意識できていないことが多いという点です。「無借金だから健全経営」「黒字だから問題ない」などの言葉には注意が必要です。皆さんは、利回り3%の債券を買うために、利子8%でお金を借りるでしょうか? こんな条件で100万円を借りたら毎年5万円ずつお金が減っていくことになります。しかし、これと同じことが会社経営の中で起こっていても、資本コストが意識されていないために、経営者が気付いていないということが実際にあります。
また、目先のPLをよく見せることだけを考えていると、未来に向かって投資すべきコストを削ってしまうことにも注意が必要でしょう。未来の利益を先食いするような、安易な施策は避けるべきです。
PL脳に対して、ファイナンス思考では、時間軸や経営的アプローチも異なります。PL脳では、四半期や年度など定められた期間の中で、管理的、調整的になりがちです。これに対して、ファイナンス思考では、どのくらいの期間で回収できるのか事業の時間軸を自発的に設定し、戦略的にアプローチします。
ファイナンス思考とDXで企業価値を高める
米国のS&P500と日本のTOPIXの成長差は過去30年で8倍と、日本は大きく米国に水をあけられています。世界企業の時価総額ランキングでは、平成元年には20位以内にひしめいていた日本企業が、平成30年のランキングでは1社も入っていません。こうした差が生まれる背景には複合的な要因がありますが、将来の成長に果敢に先行投資したか否か、という見方もできます。
ファイナンス思考は、未来に向けてどれだけ価値を高めることができるかという発想ですが、こうした目的意識はDXも同じです。ただ、DXの場合、デジタルという土台が会社によってバラバラな状態で議論されているために、その意味が分かりにくくなっていることに注意が必要です。紙の事務処理が多くPCを持たない社員がいる企業と、社員全員がSaaSを使いこなす企業とでは、目指すべき「DX」のレベルが全く異なるにも関わらず、同列に語られているがために、実態がわかりにくくなっているのだと思います。
私なりに考えるDXを始めるステップは、無駄なプロセス、自前主義、そしてアイデンティティー、この3つを順に捨てていくことです。世にあるベストプラクティスを反映したシステムを活用し、今までの自前のやり方を捨てる。
DXを目指すうえでも、まずは自分たちがどの段階にいるのかを見極めたうえで、できることから取り組んでいく必要があるのだと思います。