※本コンテンツは、2021年7月29日に開催されたJBpress主催「第2回 ファイナンス・イノベーション」の特別講演Ⅲ「ワールドクラスのファイナンス組織に向けて」の内容を採録したものです。
NECのグローバル部門のCFOとして、五大陸にわたる約40社の海外子会社のファイナンス組織と、それを支えるグロ-バルファイナンスチームを統括しています。日本のコカ・コーラビジネスで日本人女性初の取締役として活動した経験も踏まえ、グローバル標準のファイナンスを目指すNECの取り組みについてご紹介します。
NECのたどってきた道は、多くの日本企業が経験しています。バブル崩壊後、長らく続くデフレ不況。グローバル化の大きなうねりと激しいマーケット環境の変化。さらに、特異な日本のローカルニーズがある一方で、グローバル企業は先へとどんどん進んでいっています。
例えば、ローカルとグローバルの両立の悩みについては、日本企業特有ではなく、コカ・コーラでも大きな課題になっていました。そこで出した答えの一つが、強固なグローバル標準の土台の上に、ローカルのビジネスを展開していくことです。特に、ファイナンスについては、グローバル標準に合わせていくことで、よりガバナンスを強化し、利益を高めていくことができます。
早くから組織づくり、制度づくりに着手してきたグローバル企業に学ぶことは、日本企業にとって、成長の近道になると考えています。本日は、NEC全社で行っている変革と、グローバル事業で推進している新たな取り組みを紹介します。
2018年の構造改革が転機となった
下の図は、NECの過去30年の売上高と当期純損益の推移を表したものです。売上高は2000年をピークに、最近では約3兆円の水準で推移しています。純損益を表す青と赤の棒グラフが示す通り、非常に苦しい戦いをしてきました。
最後に赤字を計上した2011年東日本大震災の直後には、約1万人の人員削減を行いました。その後、2018年に構造改革を実行し、中期経営計画で「収益構造の改革」「成長の創造」「実行力の改革」を掲げ、2019年、2020年には過去最高益を計上しています。
この改革では「ポートフォリオの見直し」「成長の創造」「制度と仕組み」の3点について、ファイナンスの大きな役割がありました。
ポートフォリオの見直しでは、選択と集中を進める一方で、海外事業に成長資金を投じ、イギリスのNorthgate Public Services(現: NEC Software Solutions)、デンマークのKMD、スイスのAvaloqに投資しています。
制度と仕組みの観点では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を見据えて、経営プロセスやITシステムの刷新プロジェクトがスタートしています。管理会計システムも強化し、それらを実行するために組織を変え、人材の強化を図りました。
2018年当時、CFOに就任したのは経理・財務経験のない現社長の森田隆之でした。NECが攻めに転じて成長し、グローバルに打って出るために経営が分かり、攻めのマインドのある者が経理・財務を担うべきだ、という当時社長であった新野の強い意志のもと生まれた体制でした。