日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さが、近年取り沙汰されている。PBRは証券市場における株主からの評価を表す指標と言えるが、東証プライム上場企業のうち約4割がPBR1倍を割り込んでいるのが実情だ。一方、高PBRを実現する企業は、いかにして持続的な成長を維持しているのか。本連載では『ビジネススクール企業分析 ゼロからわかる価値創造の戦略と財務』(西山茂編著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。高PBR企業が持つ経営力の秘密に迫る。
前回に続き、第5回も、東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランドの事例を紹介(西山茂・前綾香著)。アトラクションの「待ち時間」に価値を置く考え方を変えたことで、どのように客単価が上がったのか、そのメカニズムを探る。
<連載ラインアップ>
■第1回 ユニ・チャームは「成熟期」を迎えながら、なぜ高PBRを維持できるのか?
■第2回 不織布・吸収体に経営資源を集中、ユニ・チャームの高収益を支える「本業多角化、専業国際化」とは?
■第3回 新興市場がユニ・チャームの成長を牽引、海外展開を成功に導く「勝ちパターン」とは?
■第4回 年間入園者数が3000万人を突破、東京ディズニーリゾートはなぜ驚異的なリピート率を維持できるのか?
■第5回 「待ち時間を減らす」東京ディズニーリゾートの“客単価”を引き上げたオリエンタルランドの方針転換とは?(本稿)
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驚異のリピーター集客のポイント②
満足度の向上と客単価の引き上げ
オリエンタルランドの成長には、客単価の引き上げも貢献しています。下の図は、コロナ前の2019年3月期を基準とし、1人当たりの売上高をまとめたものです。これを見るとわかるように、客単価は2021年以降、上昇しています。
客単価増加の要因は大きく2つに分けられます。「チケット/アトラクション・ショー収入」と「商品販売・飲食」です。
「チケット/アトラクション・ショー収入」に関しては、2021年3月にチケットの変動価格制を導入したほか、ファストパス(アトラクションの入場待ち時間が短縮できる無料パス)に代わって、それを進化させた「ディズニー・プレミアアクセス」を有料サービスとして2022年5月に導入し、客単価増に寄与しています。特に、一段と増加している海外からの来園者は「ディズニー・プレミアムアクセス」の使用率が高く、単価上昇の重要なポイントとなっています。
「商品販売・飲食」に関しては、コロナ期に発見がありました。感染予防のため入園者数を制限したことによって、パーク内の混雑が緩和され、アトラクションに並ぶ時間が減少し、飲食やお土産購入に充てる時間が増えた結果、客単価が増加するという現象が発生したのです。
TDRでは、「待ち時間」が戦略の1つであったと言えます。ゲストは搭乗を待ちながら、アトラクションへの期待を高めてもらっていたのです。つまり、待ち時間があることで、搭乗した際の幸福度が向上するという考え方です。
しかし、コロナをきっかけに、その考え方を見直しています。決算説明会の質疑応答でも「コロナを受けて、入園者数を一定に抑え、ゲストの満足度を上げて、パークの環境を良くしながら、一方で単価も上げていこうという考え方に徐々に変えている」という発言がありました。
オリエンタルランドは入園者数を増やすことよりも、テーマパーク内での満足度向上に重点を置く考え方にシフトしていると言えます。2024年に新設されたファンタジースプリングスでも、無料の優先入場券であるスタンバイパスやプレミアアクセスを導入し、入園者数のコントロールによる平準化に取り組んでいます。
こうした施策により満足度をさらに高めて、客単価を増やしていくというのが、TDRの新しい方針です。
客単価増加の要因として、高単価商品の導入が成功していることも挙げられます。例えば、ホテルの宿泊とパークチケット、そしてアトラクションの同時予約が可能な「バケーションパッケージ」と呼ばれる高単価商品が好調です。また、飲食の単価水準は2018年には2300円ほどでしたが、2023年には3000円まで上昇しています。クオリティを高めた比較的価格の高いメニューを導入したことが功を奏しています。