パンデミックを機に急きょテレワークを実施した企業の多くは、その大きなメリットを感じられていないが、テレワークは正しく導入すれば、経営目的の達成につながる可能性を秘めている。「攻めのテレワーク」に必要な準備や導入方法はどのようなものか。30年以上テレワーク研究に携わっている東京工業大学名誉教授の比嘉邦彦氏に話を聞いた。

※本コンテンツは、2021年12月1日に開催されたJBpress主催「第8回 ワークスタイル改革フォーラム」の基調講演「経営目標を達成する『攻めのテレワーク』」の内容を採録したものです。

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テレワークの活用は職場環境に不可欠なものとなりつつある

 これまでリモートワークを導入していなかった企業も、パンデミックを機に取り入れた事例は多い。中には、収束後はリモートワークを終了し、以前のように毎日の通勤スタイルを復活させるところもあるだろう。しかし、その前に、今後のワークスタイルについてあらゆる視点から深く考察すべきであると比嘉氏は言う。

「ニューノーマル時代に入る前に、今一度検討すべきことがあります。コロナ禍以前はオフィスへの出勤が当たり前でしたが、そもそも毎日全員が同じ場所で働く必要があるのかというと疑問が残ります。全員が集まるためには、場所や設備、通勤費など膨大なコストがかかります。果たして、それに見合うだけの費用対効果があるのか、業務効率向上は期待できるのか、改めて検討が必要です」

 パンデミックが収束したからテレワークも終了、と安易に考えてはいけない。通勤とテレワークそれぞれのメリット、デメリットを慎重に考察し、いかにして経営戦略に取り入れるかが重要である。

「厚生労働省がテレワークを実体験した従業員にアンケートを行ったところ、87.2%が『コロナ収束後もテレワークを継続してほしい』という結果でした。さらに大学生・大学院生を対象にした別の調査では、『テレワークを導入している企業への就職を希望するか』という問いに対して、8割以上の人が『希望する』と回答しました。パンデミックがある程度落ち着き、以前のような日常に戻ったとしても、この傾向は続くと考えられます。将来的に優秀な人材を確保・維持したいのであれば、テレワーク導入は必須となるでしょう」

 ここで改めて現在の社会状況を見てみると、超少子高齢化による慢性的な人手不足や、非正規雇用の急激な増加など、社会問題が今なお続いている。企業は、働き方の柔軟性を高める機会の創出や、高齢者を価値の高い労働資源にするなど、工夫と努力が肝要になる。テレワークの活用は、今や職場環境に不可欠なものとなりつつあり、企業の生き残りを左右するといっても過言ではない。

テレワークを正しく導入すれば生産性向上も期待できる

 テレワークを正しく導入すれば、従業員の生産性向上や経営目標達成など、多くの効果が期待できる。しかし、間違った導入をすると、このようなミッションは果たせない。テレワークがうまく浸透しない企業には、幾つかの特徴があると比嘉氏は言う。

「まず、経営トップのコミットメントがない企業は、失敗する可能性が高いでしょう。目的や指針もなく、経営層のリーダーシップ不在のまま部下へ丸投げの状態で進んでも、テレワークがもたらす効果は得られません。また、働き方の改革をしないで、テレワークツールを導入しただけでもうまくはいきません。遠隔でも可能なコミュニケーションや管理・評価方法などを整える必要があります。そのためには、丁寧なマネジメント研修が不可欠です」

 多くの企業が急きょテレワークを導入することになり、手探りでの運用が続いている。セキュリティー面の心配もある。システムの堅牢さを確認し、従業員のセキュリティー教育を進めるなど、一過性のものではなく、長期運用を見据えた導入を行うことが重要だ。

「印鑑が必要な書類をなくすなど電子化を進めることも、急いで取り組むべき課題です。同時に、社員へのITリテラシー教育をすることで、セキュリティー強化にもつながります。緊急措置としてテレワークを導入した場合も、テレワークのために勤務規定を改定したり、利用制限を設けるなどの特別扱いをせず、今後も根付く仕組みをつくることが大切です」

経営的効果を目指すなら「攻めのテレワーク」を行うしかない

 比嘉氏は、30年以上のテレワーク研究から「テレワーク化の度合い」を定義している。

 上図の数式で、TWi(テレワーク化度合い)が0.27以上であれば「攻めのテレワーク」、0.27未満を「守りのテレワーク」としている。

 一般的に知られている用語で説明すると、「守りのテレワーク」は「ワークライフバランスの向上」や「事業継続性向上」などに使えるテレワークといえる。一方で「攻めのテレワーク」は、オンライン上で企業活動を完結する「バーチャルカンパニー」や、オンラインを活用することで新たな価値を創出したり、強みを伸ばす「コア・コンピタンス特化組織」に活用できるテレワークである。

 下図は、テレワークの期待効果についてまとめたものだ。「守りのテレワーク」では、経営的効果は期待できない。つまり、「攻めのテレワーク」にシフトする必要があるわけだ。

「ここで大きな勘違いが起きることがあります。それは、実際にやっていることは『守りのテレワーク』であるにもかかわらず、組織改革や従業員の意識改革など、『攻めのテレワーク』による効果を期待してしまうことです。その結果、期待する効果を得られずにテレワーク自体を断念してしまう企業が後を絶ちません。経営的効果を目指すなら、『攻めのテレワーク』を行うしかないのです」

生産性の違いから見る日本ならではの課題

 パンデミックの影響を受け、テレワークの導入は日本だけでなく、世界中でも進められた。世界各国では生産性が上がっているという結果が報告される一方で、「日本はテレワークの導入により生産性が落ちた」との報道がある。

「諸外国の7割以上の人が『テレワークにより働きやすくなった』と回答しているのに対して、日本人は『働きづらくなった』との回答が多数を占めるという調査結果が出ました。テレワーク導入により『生産性が下がる』や『働きづらくなる』のは、日本だけの問題のようです。興味深いのは、日本企業の40代以上は『生産性が低下』、39歳以下は『向上』と回答した割合が高いことです。日本独特の問題というのは、管理職の多い40代以上の人たちにも要因がありそうです」

 管理職の中には、テレワークにネガティブな印象を持ち、ツールを使って部下を監視する人もいる。しかし、監視ツールは、上司と部下の信頼関係の構築を阻害する要因となる。そもそも部下が働いていることを目視で確認すること自体に意味はない。

 また、働き方改革を進める政府の指針として、在宅勤務を行う上で原則的に残業を禁止したことがある。これを受け、各企業は定時でアクセスを遮断する方法で、働き過ぎを是正しようとした。しかし、仕事がしづらいというクレームが殺到するなど、政府の方針は逆効果に終わり、その後、労使間の合意のもと、時間内であれば在宅勤務であっても残業が認められるという方針に転換している。

 このように誤った運用や制度を見直し、上司と部下の信頼関係を構築することで、日本におけるテレワークの生産性も上がっていくのではないだろうか。

管理職は「仕事」の管理や評価をすることが大切

「テレワークとDXは非常に深い関係があります」と、比嘉氏は強調する。そもそも経営目的は企業の存在意義に直結したものであり、経営目的を達成するために経営戦略が立てられる。その経営戦略を実行するために、あらゆる戦術を考えていくというのが正しい手順だ。では、DXはどう取り入れたらよいのか。

「多くの企業は、戦術のツールとしてDX化を検討していますが、本来であれば先に経営目的を達成するための手段として、DX化の検討をするべきです。私がお勧めするのは、テレワークを実現するためのDX化です。DX化によりテレワークがやりやすくなるだけでなく、『攻めのテレワーク』を支援するようなDX化を進めることによって、経営目的を達成することにつながるのです」

「攻めのテレワーク」に必要なことは何か、比嘉氏はこう話す。

「まず経営層に『テレワークの導入は経営目的達成のために行うものである』という認識が必要です。そして、そのことを全従業員に周知しなければいけません。従業員に不公平感を感じさせないために、管理・評価方法を統一して公開するなど、運用や制度の修正と改善を継続して、常に進化させていく必要があります。また、テレワークによって生産性を上げた事例をつくり、メリットを浸透させるのも効果的でしょう。管理職は、時間や勤務態度ではなく『仕事』の管理や評価をすることが大切です。そのためには、部下の能力と状況を正しく把握し、コミュニケーション能力や指示能力を身に付けなければなりません」

 テレワークは顔が見えない分、不安も多いものだ。だからこそ、仕事をしっかり定義して見える化することが重要となる。それにより、部署やチーム、部下や上司との仕事の共有が円滑になる。

「マイルストーン(中間目標)を設定すれば、管理職は仕事の進捗状況や働いている様子を把握できるようになります。従業員も自分の仕事範囲や期限が明確になり、不安なく共通の目標を持って働くことができます。『攻めのテレワーク』を正しく導入すれば、従業員のエンゲージメントの向上も期待できるのです」

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