
※本コンテンツは、2021年9月1日に開催されたJBpress主催「第7回 ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演Ⅲ「今、経営/人事が考えるWell-being」の内容を採録したものです。
「Well-Being(ウェルビーイング) 」は、肉体的・精神的・社会的に幸福な状態を指す概念。近年は経営にも積極的に取り入れられ、社員の Well-Beingを意識することは人事の重要な業務の1つにも挙げられている。楽天グループのCWO(Chief Well-Being Officer)である常務執行役員の小林正忠氏は、Well-Beingと合理性を追求する「Well-Doing(ウェルドゥーイング)」のバランスについて触れつつ、同社の具体的な取り組みを述べた。
グループ内カンパニー制 楽天グループにおけるCWOの位置付け
楽天グループでは、独立採算制の事業部門を置いている(グループ内カンパニー制)。Eコマース事業・フィンテック事業・通信事業などの上位に、各種事業を束ねる組織(カンパニー)が存在し、その組織と同列で存在するのが、小林氏がリードする「コーポレートカルチャーディビジョン」だ。
「私たちが担うコーポレートカルチャーの浸透・定着は、財務・経理などの基幹機能組織、そして売上を立てる事業組織と同列です。コーポレートカルチャーディビジョンのメンバーは20人程度ですが、各カンパニーの中にはコーポレートカルチャーディビジョンと横軸でつながるCPO(Company People Officer)が存在しています。
コーポレートカルチャーディビジョンは、それぞれ個人・組織・社会のWell-Beingを支えるウェルネス部、エンプロイーエンゲージメント部、サステナビリティ部の3つに分かれています。コーポレートカルチャーディビジョンが中心となって個人・組織・社会における求心力を高めつつ多様性を重んじ、そこから爆発力、そしてイノベーションを生み出していく考えです」
楽天グループにとっての「Well-Being」とは?
改めて小林氏は、楽天グループにおける「Well-Beingの考え方」を提示した。
「Well-Beingについて考えるときには、『よい(Well)』の定義が重要です。すなわち、誰にとっての『よい』状態なのか。特に日本人の人生においては、親や先生から『有名な学校に入ること』『有名な会社に入ること』がイコール『よいこと』と諭されがちですれが、それが本当にその当人にとってよいことだったのでしょうか。
会社組織における働き方もそれと同様で、週5日間勤務・1日8時間労働がよいとは限らない。特にコロナ禍で価値観が変容したことで、もしかしたら週2〜3回、自分のペースで働くのが『よい』のかもしれないと感じた方は少なくないでしょう。ずっとリモートワークで仲間に会う機会が減るのが『よくない』のならば、逆に会社側も今まで信じてきた『よいこと』を変えなければいけないかもしれません」
つまり、社員一人一人で異なる『よい状態』を見極めて考えることが、これからの会社組織では非常に大事になってくる。
「GDPが伸びても国民の幸福度が上昇するわけではないように、会社が成長して給料が増えても、社員のWell-Beingが保たれるとは限らない。経営者はWell-BeingとWell-Doingをバランスよく考えいかなければいけません」
楽天グループにおいてはコーポレートカルチャーディビジョンが中心となり、コーポレートカルチャーの強化を図っている。昨年はコロナ禍でリモートワークが進む中、社内アンケートでコーポレートカルチャーに関して調査した。
「例えば、『楽天らしさを感じるのはいつ?』という設問に、多くの社員は毎週月曜の朝8時から行っている『朝会』(全体集会)と回答しました。
リモートワークに切り替わっても社内インフラが整備されていたため変わらず朝会をできており、むしろ4人に1人からは『在宅でも全社の動きが理解できる』『パソコンから参加できるので集中力が増す』『三木谷さんと1 on 1ミーティングをしている感じ』といったポジティブな反応が得られました。上司とのコミュニケーションも同様にポジティブな受け止めが多かったです。
しかしその半面、同僚とのコミュニケーションでは『一緒にランチに行く機会が減ってカジュアルな会話がなくなった』『オンライン会議中は目的があるので、それ以外の雑談ができない』など、ネガティブな意見も散見されました」
そこで小林氏は、著述家のジョン・コールマン氏が唱える「優れた企業文化を構成する6つの要素(Six Components of a Great Corporate Culture)」である、「ビジョン」「バリュー(価値観)」「プラクティス(行動規範)」「ピープル(人材)」「ナラティブ(物語)」「プレイス(場所)」から施策を考えていった。
「仲間と一緒に同じ場所で働く機会が減り、行動をともにしなくなったことで、6つの構成要素のうち『ピープル、プラクティス、プレイスが奪われている』状態でした。このままいけば、ビジョン、バリュー、ナラティブまでもどんどん希薄になり、コーポレートカルチャーが弱まってしまう恐れがありました。そこで昨年(2020年)から、さらなるコーポレートカルチャー強化に向けてアクセルを踏み込みました」
3つの“間”と“余白”をデザインする
コロナ禍に端を発して始まったコーポレートカルチャーの強化策。例えば、次のような取り組みがある。
「取り組みの1つが、朝会での『Business-Do:The Way to Successful Leadership』の輪読です。これは三木谷浩史の経営哲学をまとめたもので、全88章で構成されます。また、実際に三木谷が各章ごとに解説を行い、社員からの質問にも答えます。
リモート環境下でもミッション、ビジョン、バリューを伝える機会を増やしました。他方、従業員主動の取り組みとして、社員同士の繋がり強化やコーポレートカルチャー醸成を目的に『Rakuten Culture Cafe』というオンラインカフェを有志の社員中心にオープンしました。
そこでは、楽天が大事にしている価値観(楽天主義)を共有し、スモールグループでアクティビティが行われています」
この他にも小林氏は、同社のコーポレートカルチャーを強化するため、さまざまな取り組みに注力してきた。
「われわれの取り組みは、大きく3つのイニシアチブに分けることができます。『目的と多様性』は、われわれが何のために集まっているのか、誰が集まっているのかを意識するための取り組み。『リズムとスイッチ』はリモートワークで働き方が一変した最中でWell-Beingな働き方を提供する取り組み。そして『場とツール』は自宅を含めた仕事環境への配慮・サポートを行う取り組みです」
さらに、これら3つを整理すると「仲間をつなぐ」「時間を区切る」「空間を整える」という、Collective・Well-Being(コレクティブ・ウェルビーイング)のための“三間”(さんま)が生まれると、小林氏は話す。
「三間を意識してもらうことで、仲間・時間・空間の周辺には多様な仲間との雑談、計画的な休憩、場所・協業ツールの選択肢といった“間・余白”ができます。
先行き不透明な時代において企業は、自社の目的・存在意義、そして価値観を明確化・発信しながら仲間・時間・空間といった間(余白)をデザインし、多様な価値観を持つ社員が各々の能力を発揮できる環境を整えなければいけないのではないでしょうか」
会社として集まっている目的が明確になれば、自主性が生まれ、おのずと求心力は高まっていく。これからの時代において組織力を発揮して勝ち抜いていくには、Well-BeingとWell-Doingのバランスをとり、求心力を持って取り組んでいくことが鍵となる。










