楽天グループにとっての「Well-Being」とは?

 改めて小林氏は、楽天グループにおける「Well-Beingの考え方」を提示した。

「Well-Beingについて考えるときには、『よい(Well)』の定義が重要です。すなわち、誰にとっての『よい』状態なのか。特に日本人の人生においては、親や先生から『有名な学校に入ること』『有名な会社に入ること』がイコール『よいこと』と諭されがちですれが、それが本当にその当人にとってよいことだったのでしょうか。

 会社組織における働き方もそれと同様で、週5日間勤務・1日8時間労働がよいとは限らない。特にコロナ禍で価値観が変容したことで、もしかしたら週2〜3回、自分のペースで働くのが『よい』のかもしれないと感じた方は少なくないでしょう。ずっとリモートワークで仲間に会う機会が減るのが『よくない』のならば、逆に会社側も今まで信じてきた『よいこと』を変えなければいけないかもしれません」

 つまり、社員一人一人で異なる『よい状態』を見極めて考えることが、これからの会社組織では非常に大事になってくる。

「GDPが伸びても国民の幸福度が上昇するわけではないように、会社が成長して給料が増えても、社員のWell-Beingが保たれるとは限らない。経営者はWell-BeingとWell-Doingをバランスよく考えいかなければいけません」

 楽天グループにおいてはコーポレートカルチャーディビジョンが中心となり、コーポレートカルチャーの強化を図っている。昨年はコロナ禍でリモートワークが進む中、社内アンケートでコーポレートカルチャーに関して調査した。

「例えば、『楽天らしさを感じるのはいつ?』という設問に、多くの社員は毎週月曜の朝8時から行っている『朝会』(全体集会)と回答しました。

 リモートワークに切り替わっても社内インフラが整備されていたため変わらず朝会をできており、むしろ4人に1人からは『在宅でも全社の動きが理解できる』『パソコンから参加できるので集中力が増す』『三木谷さんと1 on 1ミーティングをしている感じ』といったポジティブな反応が得られました。上司とのコミュニケーションも同様にポジティブな受け止めが多かったです。

 しかしその半面、同僚とのコミュニケーションでは『一緒にランチに行く機会が減ってカジュアルな会話がなくなった』『オンライン会議中は目的があるので、それ以外の雑談ができない』など、ネガティブな意見も散見されました」

 そこで小林氏は、著述家のジョン・コールマン氏が唱える「優れた企業文化を構成する6つの要素(Six Components of a Great Corporate Culture)」である、「ビジョン」「バリュー(価値観)」「プラクティス(行動規範)」「ピープル(人材)」「ナラティブ(物語)」「プレイス(場所)」から施策を考えていった。

「仲間と一緒に同じ場所で働く機会が減り、行動をともにしなくなったことで、6つの構成要素のうち『ピープル、プラクティス、プレイスが奪われている』状態でした。このままいけば、ビジョン、バリュー、ナラティブまでもどんどん希薄になり、コーポレートカルチャーが弱まってしまう恐れがありました。そこで昨年(2020年)から、さらなるコーポレートカルチャー強化に向けてアクセルを踏み込みました」