経営的効果を目指すなら「攻めのテレワーク」を行うしかない

 比嘉氏は、30年以上のテレワーク研究から「テレワーク化の度合い」を定義している。

 上図の数式で、TWi(テレワーク化度合い)が0.27以上であれば「攻めのテレワーク」、0.27未満を「守りのテレワーク」としている。

 一般的に知られている用語で説明すると、「守りのテレワーク」は「ワークライフバランスの向上」や「事業継続性向上」などに使えるテレワークといえる。一方で「攻めのテレワーク」は、オンライン上で企業活動を完結する「バーチャルカンパニー」や、オンラインを活用することで新たな価値を創出したり、強みを伸ばす「コア・コンピタンス特化組織」に活用できるテレワークである。

 下図は、テレワークの期待効果についてまとめたものだ。「守りのテレワーク」では、経営的効果は期待できない。つまり、「攻めのテレワーク」にシフトする必要があるわけだ。

「ここで大きな勘違いが起きることがあります。それは、実際にやっていることは『守りのテレワーク』であるにもかかわらず、組織改革や従業員の意識改革など、『攻めのテレワーク』による効果を期待してしまうことです。その結果、期待する効果を得られずにテレワーク自体を断念してしまう企業が後を絶ちません。経営的効果を目指すなら、『攻めのテレワーク』を行うしかないのです」

生産性の違いから見る日本ならではの課題

 パンデミックの影響を受け、テレワークの導入は日本だけでなく、世界中でも進められた。世界各国では生産性が上がっているという結果が報告される一方で、「日本はテレワークの導入により生産性が落ちた」との報道がある。

「諸外国の7割以上の人が『テレワークにより働きやすくなった』と回答しているのに対して、日本人は『働きづらくなった』との回答が多数を占めるという調査結果が出ました。テレワーク導入により『生産性が下がる』や『働きづらくなる』のは、日本だけの問題のようです。興味深いのは、日本企業の40代以上は『生産性が低下』、39歳以下は『向上』と回答した割合が高いことです。日本独特の問題というのは、管理職の多い40代以上の人たちにも要因がありそうです」

 管理職の中には、テレワークにネガティブな印象を持ち、ツールを使って部下を監視する人もいる。しかし、監視ツールは、上司と部下の信頼関係の構築を阻害する要因となる。そもそも部下が働いていることを目視で確認すること自体に意味はない。

 また、働き方改革を進める政府の指針として、在宅勤務を行う上で原則的に残業を禁止したことがある。これを受け、各企業は定時でアクセスを遮断する方法で、働き過ぎを是正しようとした。しかし、仕事がしづらいというクレームが殺到するなど、政府の方針は逆効果に終わり、その後、労使間の合意のもと、時間内であれば在宅勤務であっても残業が認められるという方針に転換している。

 このように誤った運用や制度を見直し、上司と部下の信頼関係を構築することで、日本におけるテレワークの生産性も上がっていくのではないだろうか。