
1890年創業の株式会社クボタは、大阪府大阪市に本社を置き、農業機械や水道用鉄管のほか、建設機械や産業用エンジン、環境関連機器などの多彩な製品・技術によるソリューションの提供により、世界120ヵ国以上の国・地域の「食料・水・環境」分野の課題解決に取り組んでいる。長期ビジョン「GMB2030」に示された目指す姿は、「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」だ。同社の専務執行役員 人事・総務本部長 兼 コンプライアンス本部長の木村一尋氏に、実現に向けた人事総務戦略を聞いた。
※本コンテンツは、2021年12月1日に開催されたJBpress主催「第8回 ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演Ⅳ「パラダイム転換期における攻めの人事総務戦略~生産性と従業員エンゲージメントの向上を目指して~」の内容を採録したものです。
年間約3億円のコスト削減より意義が大きいこと
木村一尋氏は、1981年、当時の久保田鉄工株式会社に入社後、人事部長などを歴任。2013年電装機器事業部長、2019年人事・総務本部長、2021年コンプライアンス本部長兼務を経て、現職に至った。同社で進められてきた人事総務戦略について、「まずは『組織と制度・ワークプレイスを整えよ』が合言葉だった」と話す。
「食料・水・環境分野の事業を通じた社会課題解決を実現するためには、最初に組織整備が必要でした。そこには、従来のような経済価値偏重ではなく、社会価値と経済価値をバランスよく向上させる方向に変わることに伴い、社内外に向けて宣言する必要もありました。言い換えれば、ESG(環境=Environment、社会=Social、ガバナンス=Governance)重視の経営への転換です」
組織整備として、具体的には3つの施策を講じた。
「もともと当社にはCSR企画部がありましたが、コンプライアンス推進の役割が強い組織でした。そこで、それとは別に、ESGに関わる積極的な働き掛けを行う専門部門として2021年1月1日『KESG推進部(Kubota-ESG)』を設置。『クボタらしい』ESG経営の推進を目指しています。また、同時期に設置した『健康経営推進部』では、ESGの中のS、とりわけ従業員の健康増進に注力。さらに2020年7月1日から2022年12月までの2年半にわたる働き方改革のプロジェクトとして『KOX-PT=Kubota Operation Transforming Project Team』を設置しています。同プロジェクトでは、生産性向上による体質強化とソフト、ハード両面での働きやすさ、働きがい向上の両立を目指しています」
組織整備と並行し、人事制度「Kubota Smart Work」(在宅勤務、サテライトオフィスやシェアオフィス、配偶者転勤に伴う休業制度、退職者のリエントリー制度、コアタイムをなくしたスーパーフレックスタイム制度、単身赴任解消のための遠隔地勤務制度など)と、それら制度を支えるワークプレイス整備にも取り組んだ。「やれることは、何でも取り入れていこう」という機運になったのは、新型コロナウイルス感染症の影響が大きかったという。
さらにワークプレイス整備では「都内のグループ会社オフィス(9社3カ所)をクボタ東京本社へ集約、約半年間で新しい働くスタイルへ移行した。また、現在、本社(関西)地区でも同様の移行を推進中で、こちらは2022年5月末迄に完了予定だ。
「総務の観点でコロナ禍を見ると、日本のオフィスはソーシャルディスタンスが求められ、その後、在宅勤務が常態化。それによって出勤率が低下しました。当社においても現在3割くらいの出社率であり、今後も5割くらいで維持できそうです。結果的には、このたびの不動産集約により、年約3億円の社外流出費用が削減できています。しかし、コストの問題以上に、仕事のやり方を変えるチャンスになったという意義の方が大きかったと考えています」
真に快適な職場風土の実現へ
「組織と制度・ワークプレイスを整えよ」を旗印に社内改革を行ってきた同社であるが、次に新たな課題が見えてきたという。従業員の不安や孤独、そしてミスコミュニケーションからくるメンタルへの影響だ。「そこで、 攻めの人事総務戦略としてフォーカスした合言葉が『離れて薄くなるならつながりを太くせよ』でした」と木村氏は語る。
「もともと当社は年3回、MBO(目標管理制度)の中で従業員に対し、期初、中間、期末に面談を行ってきました。しかし、これはあくまで業績の管理、言い換えれば『コトの管理』です。そこで今年1月からこれに加え、仕事のみならずプライベートも含めた内容の面談を行う1 on 1ミーティングをスタートしています。コトの管理に対して『ヒトの管理』を行う取り組みです。従来型の『管理』というより、コミュニケーションによる『つながり強化』の意味合いが強いです」
また、変革したワークプレイスにおいても「つながりを太く」するための仕掛けを施した。具体的には、通常業務、少人数の打ち合わせ、個人での集中業務、大勢でのワイガヤなど、ニーズに応じた場所の提供によるコミュニケーション促進の仕掛けだ。木村氏は、「ファシリティーレイアウトの工夫は、個人あるいはチームの生産性向上に寄与できる」と強調し、今後もオフィスがそうした役割を果たしていくと続けた。
さらには、従業員が身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念「ウェルビーイング」にも注力している。同社においては、WELL認証取得そのものを目指すのではなく、中身と趣旨を理解し、自社で対応すべき項目の選定と優先順位付けを行うことを大切にしている(WELL認証=環境・エネルギー性能と利用者の健康や快適性を評価する認証制度)。同社は空気質改善に着目し、自社製品である大空間向け業務用加湿空気清浄機「ピュアウォッシャー」計200台をグループ内の各拠点へ配備、オフィス室内の空気質改善に取り組んだ。
「人と人とのつながり+ウェルビーイングの合わせ技で、心にゆとりをもたらす快適空間を創造し、真に快適な職場風土をつくるのが、人事総務部門の責務です。努力の積み重ねで、単に出勤して働くだけのオフィスからイノベーションが生まれるオフィスへの変革を実現させたい」
企業理念を実現するエンゲージメント向上に向けて
『組織と制度・ワークプレイスを整えよ』『離れて薄くなるならつながりを太くせよ』という2つの施策について説明した木村氏は、それらの行く末にある「企業理念の実現」についても言及した。
「企業理念や会社ビジョンの実現には、その原動力となる従業員がモチベーション高く働いてくれるという仕組みが必要ではないかと考えます。当社においても『心のゆとり』と『快適空間』ができた後、長期ビジョンが実現できるのかいう目下の課題が生まれ、3つ目の攻めの人事総務戦略として『企業理念実現のためのエンゲージメントを高めよ』を掲げて、動き始めています」
従業員のエンゲージメントを高める具体策の一つが、オンラインによるマーケティング研修である。
「エンゲージメントとは自社に対する愛着。見方を変えれば、会社の事業を『わが商売』と思ってもらうことです。そこで、私が企画したのが、先述した『ピュアウォッシャー』を用いたマーケティング研修です。受講者は社内で公募し22人の従業員に参加してもらいました」
実際の自社製品について部門横断メンバーでマーケティングを考えることで、「わが商売を考える」機会を提供。自分ゴト化を進め、イノベーティブな組織風土づくりを狙った取り組みだ。参加者からは「日常に埋没しがちな中、ビジネスの根幹を考える良い機会になった」「コロナ禍でコミュニケーションが減る中、他部門の人と接することができ、意欲の向上につながった」といった前向きなコメントがあったという。同社はこの研修を「Cross My Field Program」と名付け、次年度以降も新たなテーマで継続していく予定だ。
同社では他にも、インターナルコミュニケーション強化プロジェクトチームを発足し、経営層によるタウンホールミーティングや社内SNSを用いたコミュニケーション施策、更には事業貢献の活躍機会を提供する社内公募制度などを打ち出しており、木村氏はこれらの取り組みで「事業部門の垣根を越えて活躍の機会を提供し、会社と従業員によるWin-Winの関係を築きたい」と話す。
「さらなるサステナビリティー推進に向け、やはり鍵となるのは会社の『人財力』です。当社の創業者である久保田権四郎は、日本がコレラで苦しんでいた時代、初の国産水道管を開発製造しました。世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう今、私たちもまた事業を通じた社会課題の解決により、世界に貢献していきたいと考えています。そのためにも、まずは主役である従業員の働く環境を整備し、自社の役割を考えることのできる「人財」づくりが大切です。変化の時代に勝ち残るための攻めの人事総務戦略が、企業のサステナビリティーを支えます。その使命を全うするためには、強く生き生きした人事総務部門が肝要です」










