旭化成 上席理事 人事部長 内炭広志氏(撮影:宮崎訓幸)

 経営戦略と整合させながら人事施策を展開する「戦略人事」、従業員を重要な資産と捉えてその能力を最大限に引き出す「人的資本経営」。近年、これらの重要性が叫ばれるのは、「事業成長には従業員の成長と活躍が欠かせない」と改めて強く認識されるようになったためだ。そんな中、旭化成では新たに「A-Spirit」を掲げ、従業員に対して「『A(旭化成の頭文字と、アニマルスピリットを表すAnimalの略)-Spirit』を呼び起こそう」と働きかけている。創業100年を超える旭化成で、なぜ今、「A-Spirit」が必要とされているのか。その背景と目指す地点、企業文化再構築の取り組みについて、同社人事部長の内炭広志氏に聞いた。

「挑戦」と「成長」への野心的な意欲を呼び戻す

――旭化成が新たに従業員に求める「A-Spirit」とは、「野心的な意欲」「健全な危機感」「迅速果断」「進取の気風」という4つの「心構え」を指すと聞きました。旭化成の頭文字「A」と、アニマルスピリットを表す「Animal」の「A」を掛け、「「A-Spirit」を持とう」と呼びかけているそうですが、これを打ち出した背景はどのようなものでしたか。

内炭 広志/旭化成株式会社 上席理事 人事部長

1989年大学卒業後、旭化成株式会社に入社。以降、一貫して人事関連の仕事でキャリアを積む。2020年6月から、人材サービス業を担う子会社である旭化成アミダス株式会社代表取締役社長。2023年4月から現職。

内炭広志(以下敬称略) 当社はもともと、「誠実・挑戦・創造」というバリューや、多様性、自由闊達な風土を大事にしながら挑戦を続けてきた企業です。再生繊維から合成繊維、さらには建材、医療医薬、電子材料などに多角化を進めてこられたのも、積極的な挑戦の積み重ねの結果だといえます。

 ただ、近年はそれが希薄になってきたのではないかという危機感があり、本来持っていたはずの野心的な意欲を呼び起こそうという意図で、現社長のもと全社に打ち出したのがこのA-Spiritです。

――人財戦略の骨子には、「終身成長」という独特なワードが盛り込まれていますね。

内炭 「終身成長」は社内プロジェクトから生まれた造語です。「終身雇用」を前向きに捉え直して、「生涯を通じて仕事への挑戦と自己成長を続ける」としている点が当社らしいスローガンだと思っています。これを達成するために、社員が自律的にキャリア形成や成長をすることと、個とチームの力を引き出すマネジメント力を向上させることを両輪として、推進しています。

 具体的な施策としては、自律的に学習できるプラットフォーム「CLAP(Co-Learning Adventure Place)」、個人と組織の状態を可視化してエンゲージメントの向上につなげる「KSA(活力と成長アセスメント)」などがあります。