経営戦略と整合させながら人事施策を展開する「戦略人事」、従業員を重要な資産と捉えてその能力を最大限に引き出す「人的資本経営」。近年、これらの重要性が叫ばれるのは、「事業成長には従業員の成長と活躍が欠かせない」と改めて強く認識されるようになったためだ。そんな中、旭化成では新たに「A-Spirit」を掲げ、従業員に対して「『A(旭化成の頭文字と、アニマルスピリットを表すAnimalの略)-Spirit』を呼び起こそう」と働きかけている。創業100年を超える旭化成で、なぜ今、「A-Spirit」が必要とされているのか。その背景と目指す地点、企業文化再構築の取り組みについて、同社人事部長の内炭広志氏に聞いた。
「挑戦」と「成長」への野心的な意欲を呼び戻す
――旭化成が新たに従業員に求める「A-Spirit」とは、「野心的な意欲」「健全な危機感」「迅速果断」「進取の気風」という4つの「心構え」を指すと聞きました。旭化成の頭文字「A」と、アニマルスピリットを表す「Animal」の「A」を掛け、「「A-Spirit」を持とう」と呼びかけているそうですが、これを打ち出した背景はどのようなものでしたか。
内炭広志(以下敬称略) 当社はもともと、「誠実・挑戦・創造」というバリューや、多様性、自由闊達な風土を大事にしながら挑戦を続けてきた企業です。再生繊維から合成繊維、さらには建材、医療医薬、電子材料などに多角化を進めてこられたのも、積極的な挑戦の積み重ねの結果だといえます。
ただ、近年はそれが希薄になってきたのではないかという危機感があり、本来持っていたはずの野心的な意欲を呼び起こそうという意図で、現社長のもと全社に打ち出したのがこのA-Spiritです。
――人財戦略の骨子には、「終身成長」という独特なワードが盛り込まれていますね。
内炭 「終身成長」は社内プロジェクトから生まれた造語です。「終身雇用」を前向きに捉え直して、「生涯を通じて仕事への挑戦と自己成長を続ける」としている点が当社らしいスローガンだと思っています。これを達成するために、社員が自律的にキャリア形成や成長をすることと、個とチームの力を引き出すマネジメント力を向上させることを両輪として、推進しています。
具体的な施策としては、自律的に学習できるプラットフォーム「CLAP(Co-Learning Adventure Place)」、個人と組織の状態を可視化してエンゲージメントの向上につなげる「KSA(活力と成長アセスメント)」などがあります。