材料開発にマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の活用が広まっている。人工知能技術を応用し、材料開発の効率を上げる取り組みだ。合成ゴム、樹脂コンパウンド、触媒などの多様な材料を開発している旭化成にとって、MIの実用化は2010年代後半に課せられた至上命題だった。その大きな第一歩となったのが、省燃費型タイヤ向け合成ゴムの開発である。携わった人たちの証言から、MIは「魔法の杖」では決してないことが伺える。
本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年7月13日)※内容は掲載当時のもの
固定観念に囚われずアイデアを生み出し、逆境に屈せず人・組織・技術の壁を乗り越えてこそはじめて、企業変革は成し遂げられ、新たな価値が創造されます。本特集では、新規事業をはじめとしたプロジェクトの軌跡をたどり、リーダーたちの思いや苦労、経験にフォーカスしながら、変革実現のヒントを探ります。
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「2年間は失敗つづき」、Python採用へ
人工知能などを用いることで、従来のさまざまな材料を組み合わせて繰り返し実験を行う手法より格段に効率よく新規材料を探索できる。これが、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の特徴だ。その歴史は2011年、米国バラク・オバマ大統領(当時)が主導した材料革新事業「マテリアル・ゲノム・イニシアチブ(MGI)」までさかのぼることができる。
2010年代中盤、旭化成の社員たちもMIの導入を模索していた。今デジタル共創本部 インフォマティクス推進センターの長である河野禎市郎氏は、過去に社内制度で米国留学をした時、たまたま触れた機械学習が膨大なデータを処理する様子を見て可能性を感じた。MGIをはじめとする世の中のうねりをきっかけに、MIをどうにか普及させたいと、材料開発の各部署にはたらきかけた。
当初、MIで使う人工知能を扱ったのは、材料の技術開発者でなく河野氏らMI推進者だったが、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)では現場の人間が自ら取り組むことが重要と感じていました。途中で方針を変え、現場の技術開発者に扱ってもらうことにしました」(河野氏)
しかし、始めの2年間は全く上手くいかず失敗続きだったという。