昭和の経営者で「最も成功した東大出身起業家」の名をほしいままにしていたのが、リクルート(現リクルートホールディングス)創業者の江副浩正氏。広告もコンテンツとなりうることに目をつけた江副氏は、広告主体のメディアをいくつも立ち上げ、時代の寵児となっていった。
「起業する東大出身者は落ちこぼれ」と言われた理由
マネックスグループの松本大会長、ユーグレナの出雲充社長、オイシックスドット大地の高島宏平社長、ジョルダンの佐藤俊和社長――。彼らに共通するのは、皆、東京大学出身の起業家であることだ。今では東大出身起業家が設立した企業、約30社がIPOに成功している。
こうした成功事例に影響を受けたこともあり、起業家を目指す東大生は多い。また東大側も、産学協創推進本部を立ち上げ、学内研究者・学生向けの起業/経営相談窓口の設置やインキュベーション施設の整備・運営、アントレプレナーシップ教育やプロジェクト支援プログラムの提供を行っているほか、2016年には「東京大学協創プラットフォーム開発(株)」が設立され、資金拠出も含めたイノベーション創出を加速させている。今では東大発ベンチャーは、日本のスタートアップ界の一大勢力となりつつある。
しかしこうした状況が生まれたのはつい最近のこと。少し前までは、「起業する東大出身者は落ちこぼれ」が、東大生の大半の認識だった。
言うまでもなく、東大は日本一優秀な頭脳が集まる大学だ。そして長らくの間、東大生は、優秀な自分たちは卒業後、日本という国を動かすことが使命だと信じていた。だからこそ、かつて東大生にとっての理想とされていたのは、東大法学部から大蔵官僚を筆頭とする国家公務員への道を歩むことだった。
東大生は仮に官僚にならずに就職するにしても、銀行や鉄鋼といった国家を支える企業を志望した。就職せずに起業しようと考える学生はほぼ皆無。就職しても入った会社でどれだけ上り詰めることができるかが自分たちの価値を決めると考えていた。
そのため、20世紀には東大出身起業家はほとんどいなかったが、例外が2人いる。1人は以前、本シリーズでも取り上げた藤田田氏。米マクドナルドと合弁で日本マクドナルドを立ち上げ、日本のファストフード文化をつくった。
そしてもう1人が、今回の主人公で、リクルート(現リクルートホールディングス)の創業者である江副浩正氏(1936─2013)だ。