江副浩正氏(写真:横溝敦)

 昭和の経営者で「最も成功した東大出身起業家」の名をほしいままにしていたのが、リクルート(現リクルートホールディングス)創業者の江副浩正氏。広告もコンテンツとなりうることに目をつけた江副氏は、広告主体のメディアをいくつも立ち上げ、時代の寵児となっていった。

シリーズ「イノベーターたちの日本企業史」ラインアップ
盛田昭夫はいかにして無名だったソニーを「世界のSONY」に成長させたのか
盛田昭夫が夢見たソニー流「エレキとエンタの両輪経営」はこうして実現した
ヤマト運輸元社長・小倉昌男が採算の合わない「宅急便事業」に挑戦したワケ

「宅急便」の生みの親、小倉昌男はケンカも辞さない江戸っ子経営者だった
松下幸之助をはねつけてまで貫いたダイエー創業者・中内功の「安売りの哲学」
中内功が築き上げた日本有数の巨大企業グループ、ダイエーはなぜ転落したのか

ハンバーガーを国民食にした日本マクドナルド創業者・藤田田の商魂たくましさ
孫正義も師と仰いだ日本マクドナルド創業者、藤田田の先見力はなぜ陰ったのか
ウイスキーを大衆化させたサントリー、佐治敬三の卓越したマーケティング力
「舌禍事件」でピンチ招いたサントリー、佐治敬三はどう経営を立て直したのか
■「最も成功した東大出身起業家」、リクルート江副浩正が時代の寵児になるまで(本稿)
天国から地獄へ、リクルート事件で全てを失った江副浩正の晩節


<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

「起業する東大出身者は落ちこぼれ」と言われた理由

 マネックスグループの松本大会長、ユーグレナの出雲充社長、オイシックスドット大地の高島宏平社長、ジョルダンの佐藤俊和社長――。彼らに共通するのは、皆、東京大学出身の起業家であることだ。今では東大出身起業家が設立した企業、約30社がIPOに成功している。

 こうした成功事例に影響を受けたこともあり、起業家を目指す東大生は多い。また東大側も、産学協創推進本部を立ち上げ、学内研究者・学生向けの起業/経営相談窓口の設置やインキュベーション施設の整備・運営、アントレプレナーシップ教育やプロジェクト支援プログラムの提供を行っているほか、2016年には「東京大学協創プラットフォーム開発(株)」が設立され、資金拠出も含めたイノベーション創出を加速させている。今では東大発ベンチャーは、日本のスタートアップ界の一大勢力となりつつある。

 しかしこうした状況が生まれたのはつい最近のこと。少し前までは、「起業する東大出身者は落ちこぼれ」が、東大生の大半の認識だった。

 言うまでもなく、東大は日本一優秀な頭脳が集まる大学だ。そして長らくの間、東大生は、優秀な自分たちは卒業後、日本という国を動かすことが使命だと信じていた。だからこそ、かつて東大生にとっての理想とされていたのは、東大法学部から大蔵官僚を筆頭とする国家公務員への道を歩むことだった。

 東大生は仮に官僚にならずに就職するにしても、銀行や鉄鋼といった国家を支える企業を志望した。就職せずに起業しようと考える学生はほぼ皆無。就職しても入った会社でどれだけ上り詰めることができるかが自分たちの価値を決めると考えていた。

 そのため、20世紀には東大出身起業家はほとんどいなかったが、例外が2人いる。1人は以前、本シリーズでも取り上げた藤田田氏。米マクドナルドと合弁で日本マクドナルドを立ち上げ、日本のファストフード文化をつくった。

 そしてもう1人が、今回の主人公で、リクルート(現リクルートホールディングス)の創業者である江副浩正氏(1936─2013)だ。