写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ、共同通信社

 デジタイゼーション、デジタライゼーションを経てデジタル化の最終目標となるデジタルトランスフォーメーション(DX)。多くの企業にとって、そこへ到達するためのルート、各プロセスで求められる施策を把握できれば、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるはずだ。  

 本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。第4回は、イオン、ライオン、楽天ほか、先進企業が推進する、AIやデジタルデータを駆使した物流改革について解説する。  

<連載ラインアップ>
第1回 「やってみなはれ」、サントリーが挑むDXと新浪社長が目指す生成AIの活用とは
第2回 ファストリ、デジタル化でサプライチェーンを“完全可視化”する本当の狙い
第3回 AIとデータ活用で何を実現?リクルートが目指す新たなビジネスモデルの真価
■第4回  イオン、ライオン、楽天、先進企業が推進するデジタルを駆使した物流改革(本稿)
■第5回  MUFGの新たな需要を取り込むDX戦略とは?(仮題)



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AIを活用し配送計画を最適化、イオンの物流改革

 小売大手のイオンは、2023年12月に、グループ共通施策として、2024年春から全国約3300店舗を対象に物流効率の改善を前提とする店舗輸送方式への移行を発表しています。 

 この新たな方式は、仕入れ、物流、販売のそれぞれの工程を連続した一連のプロセスと捉えることにより、サプライチェーン全体のオペレーションを再設計して物流効率を最適化しようというものです。

 こうした物流網を再構築する試みは、イオンがこれまで各地域でプロジェクトとして進めてきたものですが、プロジェクトごとの成果の検証と分析を通じて、物流課題の解決に必要な効率改善の手応えが得られたことから、グループ共通の配送方式として全社的に展開するに至っています。

 具体的には、4つの施策、すなわち、「車両効率を前提とした納品時間枠の設定と日別物量の平準化による積載率の改善」「AIを活用した配送計画の最適化による必要車両数の効率化」「店舗荷下ろし時のドライバー付帯作業の削減」「モーダルシフトやエリア単位での共同配送のさらなる推進」を展開することにより、最大で約10%の配送効率改善を見込んでいます(図表1)。

(出所)イオンのニュースリリース「イオンの物流『2024年問題』対応について」(2023年12月22日)より作成
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 この中でデジタライゼーションの視座から特に注目されるのは、2番目の施策です。この施策は、交通状況や店舗別の物流状況などのデータを基に、AIが輸送の最適ルートを割り出すことにより、トラックの輸送距離と車両台数の最少化を目指すものです。

 このAIを活用した配車システムを、全店舗に出入りする150万台(年間)のトラックに導入することになれば、輸送距離では年間で最大2800万キロメートル、また、車両台数では15万台を減らすことが可能となります。

 現状の輸送距離は、倉庫と店舗の間で年間2億8000万キロメートルに達することから、車両台数に加え、輸送距離の面でも10%の効率改善が図られることになります。

 その上、二酸化炭素の排出量も約10%抑えることができることから、環境面でも改善されることになり、ESGの取り組みとしても有効な打ち手となります。