一口に「デジタル化」といっても、その中身はさまざまだ。請求書のペーパーレス化、顧客窓口でのAI活用、アプリと最先端テクノロジーを掛け合わせ、ライドシェアのような新しいビジネスモデルを構築することが「デジタル化」と一括りにされることもあるが、本来はまったくレベルが異なる。デジタル化の最終目標であるDXを目指す多くの企業にとって、そこへ到達するまでのプロセス、各レベルで求められる施策を把握できれば、「デジタル化」への理解が深まり、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるのではないか。
本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。第3回は、転職スカウトサービス「リクルートダイレクトスカウト」やオンライン学習サービス「スタディサプリ」で進むリクルートのデジタライゼーションについて解説する。
最新テクノロジーで顧客価値を向上、リクルートのデジタライゼーション
パンデミックや気候変動、デカップリングなど先の見通せない今日、企業が必要とする人材が急速に変化する一方で、個人の価値観や働き方が多様化していることから、人材紹介業界では、両者を最適にマッチングすることはますます難しくなっています。
こうした状況を踏まえて、リクルートは、2023年12月に会員制転職スカウトサービス「リクルートダイレクトスカウト(ダイレクトスカウト)」をリニューアルし、最新のテクノロジーを組み込むことで顧客価値を高めています。
ダイレクトスカウトは、求職者がレジュメをオンラインで登録すると、企業や転職エージェントからスカウト(求人情報)を受け取ることができる会員制サービスで、無料で利用することができます(下図)。
リクルートとしては、求職者と企業のマッチングを最適化できるようなプラットフォームを目指しており、その実現のためには、「出会いのきっかけをご提供し続けること」と「求職者と企業が希望の働き方や期待する役割を擦り合わせていくコミュニケーションができること」の2つが重要であると捉えています。
こうした役割は、従来であれば、キャリアアドバイザーが担うものですが、これをオンラインで再現するために、さまざまなエッセンスをプラットフォームに組み込んでいくことで、従来にないダイレクトスカウトサービスの実現を目指しています。
今回のリニューアルで導入された機能のうち、デジタライゼーションの視座から重要となるのは、以下の2点です。
1つ目は、求職者が簡単に職務経歴書を作成できる「レジュメ機能」の導入です。職務経歴書は、求職者が自分の長所やスキルなどをアピールする書類で、学歴や職歴といった情報を記載する履歴書を補足するために、具体的な内容の記述を文章で入力することが求められるとともに、書き方には工夫が必要となります。
そのため、作成には多くの時間と手間がかかり、上手く作成することができずに求職活動を進めるうえでつまずく人も少なくなく、求職者の負担となっていました。
しかし、新たに導入されるレジュメ機能を使えば、求職者が、経験やスキル、希望する勤務条件などの質問に選択肢で答えていくだけで自動的に文章が作成され、職務経歴書を完成させることができます。
文章作成には生成AIが活用されており、リクルートがこれまで40年以上にわたり蓄積してきた応募から採用に至るまでのデータ、すなわち、1億件以上の解析結果が生かされています。
選択肢も1万4000件用意されていることから、詳細な職務履歴書の作成が可能となり、求職者の意向や希望がより反映されるだけでなく、求職者自身が気づかないポイントまでアピールできる内容を作成することが可能となります。