物流と地球社会を持続可能にするために、今何が必要なのか。デジタル先端技術から経営戦略まで、世の誤解・曲解・珍解を物流ジャーナリスト・菊田一郎氏が妄想力で切りさばく連載企画。
第1回は、ドライバーの時間外労働時間における上限規制の適用が今年4月に迫り、輸送力不足が心配される「物流2024年問題」の盲点を考察する。
大手企業の約半数が物流危機を想定していない
「物流2024年問題」に対する産業界の理解が、怪しい。
共同通信社が2023年末に調査し、2024年1月2日にまとめた各業界の代表企業113社※へのアンケート結果によると、ドライバーの時間外労働時間の上限規制が強化されることで輸送力不足が起きるとされる「物流2024年問題」が及ぼす業績への影響について、35社(31%)が「今のところ悪影響は出ていないが、今後は出てくる」(①)、2社は「(すでに)悪影響が出ている」(②)と回答。悪影響を見通したのは合わせて33%と、全体の3分の1だった。
※回答113社のうちトラック運送専業はNXホールディングスのみ。大半が荷主企業。
対して「影響は不明」(③)とした企業は30社(27%)、「業績に悪影響は出ておらず、今後も出ない」(④)と見る余裕(?)の企業は22社(19%)。計46%、つまり我が国を代表する企業の約半数が、物流2024年問題の悪影響を重視しない/想定していないのであるらしい。
実は上記の①も「今のところ影響は出ていない」のだから、①③④を合わせ「2023年末時点で2024年問題の影響を感じていない代表企業は77%」・・・だったと解釈できる。
政府が2023年までに、物流革新緊急パッケージに至る2024年危機回避への施策をあれだけ懸命に進めてきた直後としては、危機を感じ/想定する企業が少なすぎないか? 政府が対策の依拠としたNX総研の調査結果は、「2024年時点で不足する輸送能力=14.2%/同営業用トラック輸送トン数=4億トン/2025年に不足するドライバー=14.6万人」なのである。
企業が物流危機を感じにくいのはなぜか
だが、「企業の危機感度が低い、現実を直視せよ!」と一方的になじるのは早計かもしれない。この数字の読み方は、意外に難しいからだ。たとえば本調査を引いて2024年1月4日付朝刊で報じた毎日新聞は、「影響は不明」の③について前記のように「重視していない」結果とは見ず、「多くの企業が身構える様子がうかがえる」と危機寄りに解釈している。
じつは本調査が示す傾向全体は、筆者が周辺取材でこれまでに得ていた感触と矛盾しない。
「2024年問題の影響を感じていない企業が77%」になった第1の要因は、国内物流量の停滞により供給超過状態が続いたことだろう。NX総研の企業物流短期動向調査(短観)の「国内向け出荷量の実績と見通し」によると、2022年4月~12月に「増加」とした企業は21~24%、2023年1~9月では19~20%と、約8割は「横ばい・減少」が続いている。コロナ後に至っても、資源インフレ等の影響か、物流量はコロナ前に戻っていない。この需給バランスからトラック便が普通に確保でき、「物流が止まる?」の危機感は広がらなかったようなのだ。
SIP地域物流ネットワーク化推進協議会の早川典雄事務局長(セイノー情報サービス元取締役)は、岐阜県内の発荷主企業への聞き取り結果として、「まだ困っていない/今日頼めば、今日トラックが来てくれる」との回答が多かったと、2023年秋の筆者取材で明かしている。
ここでもう1つ外せない視点は、「2024年問題への対策が進捗し、危機は回避できる」と判断する企業が増えた、との読み方だ。希望的観測は慎むべきだが、筆者が2023年中に数社の大手・中堅物流企業を取材した範囲では、「自社内のドライバーの労働時間制限については対応を完了した。協力会社には鋭意展開中」との回答がほとんどであった。もちろん、社外に孫請け・ひ孫請け・玄孫請けと連なる多重下請け構造を掘り下った実運送会社にまで、対応を浸透させることが急務なことは言うまでもない。