佐川急便を中核とするSGホールディングスグループは、2010年代に構築したグループ共通のIT基盤を生かした物流プラットフォームサービスなど、攻めのIT投資を続ける。また、デジタルによるさらなる業務改善と、プラットフォームを活用した新規事業にも乗り出す。

 グループのIT、デジタルを統括する谷口友彦氏に、物流業界が抱える課題をどう乗り越えようとしているのか、そして目指す未来について聞いた。

システム刷新で実現した荷物の原価管理

——SGホールディングスグループは、これまでどのようにデジタル化を進めてきたのでしょうか。

谷口 友彦/SGホールディングス執行役員 DX戦略担当 SGシステム代表取締役社長 佐川急便取締役

2002年フューチャーシステムコンサルティング入社。流通業や物流業の基幹システム刷新を多く手がける。2016年、SGホールディングスグループの情報システム会社であるSGシステム代表取締役社長に就任。2019年より現職。グループ全社のIT、デジタル戦略を統括する。

谷口友彦氏(以下・敬称略) 私は、ITコンサルティング会社で流通や物流業界のシステム開発を担当しており、佐川急便のシステムも担当していました。2005年から、佐川急便の情報システムで稼働していたメインフレームの基幹システムを、オープン系のシステムに刷新するプロジェクトのリーダーを務めました。

 当時、当社グループの貨物の追跡システムや決済基盤などは完全に分離したシステムで運用していました。このシステムの問題は、処理量が増えるのに比例して大きなシステムに置き換える必要があり、IT投資が増えていくことです。取り扱う荷物の量は年々増えており、特に5年ごとのシステム更改のタイミングでは、常に大きなシステムに入れ替える流れができあがっており、投資は膨らむ一方でした。

 システム刷新の狙いは、この流れを断ち切ることでした。各ベンダーに依存しているメインフレームから脱却し、全社共通のオープン系プラットフォーム上に各業務のシステムを載せることで、ITコストを大幅に下げることができました。

 コスト削減を実現したことで、次のステップとして投資余力を攻めのIT投資に充てる提案を佐川急便にしたところ、SGホールディングスグループの一員として情報システムの開発をリードすることになりました。

 まずはじめに取り組んだのは、データ分析による経営改善です。その基本的な情報を得るために、荷物1個あたりの単価を割り出すことを目指しました。

 荷物の運賃はサイズ、重量と距離で決まっていますが、人件費、配送コストなどは荷物によって異なり、1つの荷物にいくらかかっているのかを正確に把握することができませんでした。そこで、個別の荷物に関わる原価、時間、配達など全てのデータを共通プラットフォームに集約し、ビッグデータ分析によって単価をはじき出しています。これによって荷物の単価を正確に割り出し、そこから計算した適正運賃をいただくことで経営改善を進めてきました。

 機動的なIT戦略の実行には、開発体制の見直しも必要でした。ベンダーに依存してきた開発を内製化に切り替えるため、社内でプログラミングができる人材育成を進めました。現在IT人材は1000名程度育っています。