大企業の経営幹部たちが学び始め、ビジネスパーソンの間で注目が高まるリベラルアーツ(教養)。グローバル化やデジタル化が進み、変化のスピードと複雑性が増す世界で起こるさまざまな事柄に対処するために、歴史や哲学なども踏まえた本質的な判断がリーダーに必要とされている。
本連載では、『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の著書があるマーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、日々のビジネスと関連付けて解説する。
連載第1回は、西洋哲学の源流である「ソクラテス哲学」と、近年話題になっている「心理的安全性」の関係をひもとく。
教養は、骨太なビジネス思考の源となる
今、ビジネスパーソンの間で「教養」が注目されている。現代のビジネスで遭遇する複雑な問題は、即効性あるノウハウでは解決できない。問題の本質を洞察し解決するには幅広い教養が必要なことをビジネスパーソンは直感的に認識し始めている。
最近は大企業もお金をかけて経営幹部へリベラルアーツ研修を行っている。しかしそうした場で教える西洋哲学や社会学を長年研究してきた専門家の方々に「ビジネスで教養がいかに役立つのか」と聞くと、「教養はそんな安っぽいものじゃない」という答えが返ってきたりする。
だが、私は以前からこの答えに異論があった。私はビジネスパーソンが骨太なビジネス思考を身に付けるには、教養のエッセンスを学ぶことが一番の近道だと考えている。あなたのビジネス力を格段に向上させるために、教養は大いに役立つ。
そこで、ビジネスで責任ある立場にいる方々が骨太なビジネス思考を身につける上で、土台となる実践的な教養のエッセンスを学んでいただく場になればと思い、本連載を始めることにした。
ところで「教養」というと真っ先に「西洋哲学を学ぼう」となる。確かに西洋哲学は重要だが、これは教養の一分野に過ぎない。リベラルアーツの源流は「自由七科」と呼ばれる中世西洋の必須教養科目だ。自由七科には、文法、修辞学、弁証論、算術、天文学、幾何学、音楽が含まれる。教養は実に範囲が広いのだ。
そこで本連載では、現代の教養として西洋哲学、政治・経済思想、社会学、東洋哲学、歴史・アート・文学、サイエンス、エンジニアリングといった分野を取り上げ、それらがいかに現代の経営理論やマーケティング理論とひも付き、日々の私たちのビジネスに役立つかを、分かりやすく紹介していく。サブテキストとして拙著『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた 』(KADOKAWA)を使用する。
連載第1回となる今回は、西洋哲学の源流である「ソクラテス哲学」に基づいて、今話題の「心理的安全性」の本質を学んでいこう。