日本企業のDX推進が進まない原因はどこにあるのか。日立造船の常務執行役員ICT推進本部長を務める橋爪宗信氏は「欧米に比べて日本は、IT人材の多くがIT企業関連に従事しているからである」と分析する。同社では、この課題に対峙し、デジタル技術を自社の強みとするべく、内製化や人材育成に注力しているという。橋爪氏に、日立造船のデジタル革新の現在地を聞いた。

※本コンテンツは、2022年9月28日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第14回DXフォーラム」の特別講演2「DXの自律的な推進に向けて~内製化と人材育成~」の内容を採録したものです。

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DXを支える技術をコストではなく利益の源泉として捉える

 日立造船は1881年に大阪鉄工所として創業し、現在は、エネルギーと水を中心とした「『環境』の日立造船」として、ごみ焼却発電施設や洋上風力発電事業を展開中だ。東京ゲートブリッジといった橋梁(きょうりょう)も同社の得意とする製品であり、最近ではメタネーション事業にも着手しているという。機械、設備の製作や工事にとどまらず、グリーントランスフォーメーションを最重要事業と据えて、さまざまな事業を手がける老舗企業だ。

 現在、同社では「2030年ビジョン」と称される長期的な経営目標のもと、営業利益率10%を目指し、収益性の高い事業の成長に向けてデジタル改革に取り組んでいる。

「われわれは、顧客・市場との対話を促進し、全ての製品・サービスにIoTとAIを組み込み、新たな顧客価値を提供することを目標としています。お客さまの課題を解決するようなサービスを、より展開していくためにも、戦略の重要な柱にデジタル技術を位置づけているところです」

 同社のICT推進本部で本部長を務める橋爪宗信氏は、「ICTのCenter of Excellenceとして、日立造船グループの次の100年を支える『強み』の創造を目指している」と話す。特に製品サービスそのもののデジタル化に力を入れており、デジタル化を推進するための基盤として、業務・生産プロセスにおける生産性の大幅な向上や、経営判断を加速化するための分析力の高度化も重視しているという。

 橋爪氏は、同社のDX戦略を次のように語る。

「顧客価値をデジタルで最大化する部分を『事業DX』とし、業務プロセスなどのデジタル化といった働き方改革の実現を目指す部分を『企業DX』としています。われわれの狙いは、これらを支える技術の部分である『DX基盤』を自社の強みにすることです。日本の企業の多くは、IT企業をパートナーにすることでDX基盤を確保し、戦略を進めるケースが多いでしょう。しかし私たちは『DX基盤』をコストではなく、利益の源泉にしたいと考えています」

 あらゆるDX戦略を推進する上で、DX基盤を「一人称でつくり込んでいく活動」に注力しているという同社。特に「プラットフォームの強化」と「DX人材の育成・拡大」に重きを置いているというが、具体的にはどのようにアプローチしているのだろうか。