アシックス常務執行役員でCDO、CIOも兼務する富永満之氏(手に持っているシューズは最新作の「METASPEED+」シリーズ)

EC、D2C分野での出遅れを痛感

 各種スポーツ用品等の製造販売を手掛けるアシックスは、この20年で海外売上げ比率が40%から75%まで高まった。いまやグローバル企業に変貌した同社でDX推進のキーマンといえるのが、デジタル統括部長としてCDOやCIOも兼務する常務執行役員の富永満之氏である。

 富永氏がアシックスに転じたのは2018年のことだったが、入社の経緯について同氏はこう述懐する。

「米国の大学を卒業後、そのままアンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)のニューヨーク事務所に入社して8年勤めました。日本に帰国後は日本アイ・ビー・エムに転職して約17年。両社とも仕事はITコンサルティングです。さらにSAPジャパンに移籍後、クライアントの1社だったのがアシックスでした。それまでずっとコンサルタントの立場からITを見てきたわけですが、実際に事業会社の一員としてITを手掛けてみたいという思いも強くなっていました。そんな頃、ご縁があってアシックスに入社することになりました」

 富永氏は入社時のCIOに加えて翌2019年にはCDOも担当、デジタル戦略を本格的に始動させるタイミングでもあった。アシックスは富永氏がクライアントとして相対していた2015年ごろ、既にAFS(アパレル・フットウエアソリューション)というSAPシステムを導入していた。調達から生産、販売、会計まで全ての業務プロセスをリアルタイムに統合するソリューションだ。

 ただ、AFSはホールセール(大型のスポーツ用品店や専門店、百貨店などに商品を卸す販路)向けのシステムで、当時、アシックスのホールセール比率は9割にまで達していた。しかし、時代はEC(電子商取引)やD2C(販売業者を介さない直売)が増え、リアルとバーチャルを融合したオムニシャネルへとシフトしていた。また、ホールセールに比べてECやD2Cは粗利益率が高く、アシックスも必然的にそうした販路の比率を高める必要があった。富永氏はこう語る。

「在庫もECや直営店、ホールセールそれぞれで持つと大きくなるので一元管理し、必要な時に必要な量の商品を出せるシステムにしないといけません。また、グローバルで1つのシステムに集約することでコスト削減もできる。ただ、当初はどこをどう効率化すればいいのか、お客さまとのタッチポイントを増やすとはどういうことなのか、いまひとつイメージが湧きませんでした。ナイキやアディダスの2大勢力が着々とデジタルシフトを進めていた中、ECやD2Cの分野で完全に出遅れてしまいました」