「Life-changing」な価値創出を目指して、バイオテクノロジーや抗体医薬の開発に取り組む協和キリン。2020年に全社の共通イメージとなる、デジタルで実現する会社のあるべき姿として「デジタルビジョン2030」を策定した。社内外のデータを利活用することでアンメットメディカルニーズ(いまだに満たされていない医療ニーズ)に取り組み、病気に関わる全ての人を笑顔にしていくことを目指す。
2020年より策定したデジタル戦略には3つの柱として「3 strategic pillars」を掲げており、「Digital for Operation」「Digital for Innovation」の2つを「Foundation for Digital」で支える。
「Digital for Operation」ではグローバル製品の拡大に伴い、スピード感を持ってオペレーションを支える基盤をグローバル水準で整えていくため、SaaS(Software as a Service)によるソリューション利用を積極的に進める。
「Digital for Operation」によって生み出される「Digital for Innovation」では、研究開発、生産、営業の3部門を中心にデジタルで新たな価値を提供する。患者に早く、効率的に医薬品を生み出し、届けるプロセスを築くことを目指し、AIベンチャーInveniAI社との共同研究でデータを活用したAI創薬にも取り組んでいる。
この2つを支えるのが、DX推進基盤の強化にあたる「Foundation for Digital」だ。データ基盤とそのデータを活用できる人材を全社に配置することで、オペレーションを抜本改革して生産性を上げる体制を整える。
ICTソリューション部長の廣瀬拓生氏は「中でも、バイオ医薬品創薬に必須の抗体(病原菌が体内に入ったとき、異物を除去するタンパク質)の情報は広くデータベース化しており、データを活用した新たな創薬への取り組みを進めている。全社員がデータドリブンの感覚を持つことを目指す」と語る。
グローバル・地域・業務領域の3層モデルで最適なオペレーションを実現
医薬品事業における業務機能は多岐にわたっており、それぞれの業務領域ごとに目指す姿や目的が異なる。例えば、人事や予算管理はグローバルで全体最適化されるべきだが、営業や生産は各地域の特性に合わせて柔軟に管理できる基盤とするべきだ。
このため、システム基盤の構築方針は3つの視点から定義して実装する。国や地域の独自要件に対応する「Regional Platform」、安全性管理や薬事など業務領域ごとに最適化する「Funcion Platform」、そしてグローバル最適を最大限に追求する「Enterprise Platform」だ。
これらの基盤で管理される業務と情報は、90%以上がクラウド上で実装される。誰がどの国にいても、すぐに情報閲覧を可能とし、データ活用できるようにすることで、グローバル基盤を整えて、スピード感を持って仕事ができる体制を築くことが狙いだ。
「オンプレミス(社内)で管理するシステムは全体の10%以下になっており、製造事業所内の実行管理システムなど、運営上やむを得ない必要最低限のものだけに絞っている。所有による運用コストを最適化すること、クラウドサービスによる先端技術や業界のベストプラクティスを最大限利用することで、環境変化に対応しやすくするためだ」