テルモ株式会社 DX推進室 室長 大森 真二博士

 テルモは、北里柴三郎博士らを発起人として、体温計の国産化を目指して設立された創立100年を超える医療機器メーカーだ。同社ホームページに記載された北里博士のスピリッツ「学者は、高尚な研究で自己満足してはいけない。これを実際に応用して社会に貢献することこそ、本分である」 は、同社の「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念に反映されている。現在、同社は、世界160以上の国と地域に2万8000人以上のアソシエイトが在籍し、体温計以外に、カテーテル治療、心臓外科手術、糖尿病管理を始め幅広い分野に関する製品やサービスを提供している。そして2021年4月にDX推進室を設立、テルモ全体でDXを推進することとなる。医療で社会貢献する企業のDXとはなんなのか。同社、DX推進室に聞いた。

5カ年成長戦略「GS26」にDX戦略を明記、DX推進室が中心になりテルモ全体を引っ張る

 テルモがDX戦略を明確にしたのは、2020年9月、海外子会社の社長や部門責任者を含めたリーダーが集まる同社のグローバルリーダーシップミーティングにおいて、全社的なDX推進についてコンセンサスを得られた日からだ。医療分野におけるDXに関して同社は数年前から問題意識を抱えていたが、コロナ禍という異様な事態によって、リモートワークやオンライン診療といった流れに大きな注目が集まり、テルモを含む医療現場に大きな変革を迫った。

 このとき同社のグローバルリーダーは、DXによってどんなチャンスが生まれるのか、自分たちは何ができるのかを徹底的に議論した。こうして、DXによる変化はチャンスであり、遅れることは危機であり、テルモの各部門が自律的に推進すべきオーナーシップの醸成が重要と、各所で意見が一致した。

 こうしてテルモはDXという単語を、同社5カ年成長戦略「Growth Strategy 2026(GS26)」に記載し、その実行を宣言した。

 同社DX推進室長 大森真二氏は、DXによる新たなビジネス創出にも期待は大きいと言う。従来の医療は、病気を治すという部分にフォーカスされていたが、今はペイシェント・ジャーニー(patient journey)といって、患者が病気を知った時から、治療、リハビリ、完治といった一連の流れをケアすべきという考えが中心になってきている。一連の流れをケアしスムーズにつなげるには、同様にスムーズな病状等のデータ連携が重要で、こうした部分にDXへの期待は高い。例えば、患者に常に寄り添えるスマートフォンアプリなどの活用は、既に幾つかが実施されている。テルモは、ペイシェント・ジャーニーへの関与は、DXにとっての大きなOpportunity、チャンスと捉えている。