(写真左)帝人 インプランタブルメディカルデバイス開発部 十川亮氏、(写真右)帝人 インプランタブルメディカルデバイス開発部 藤永賢太郎氏 (撮影:川口絋)

 先天性心疾患の治療における課題解決を目的に作られた、心・血管修復パッチ「シンフォリウム」。大阪医科薬科大学、福井経編興業と共同開発を行った帝人にとって、外科手術に用いる医療機器の製造は初めての挑戦だったという。同社はどのような理由からこのプロジェクトに参入し、いかなる役割を担ったのか。10年以上に及ぶ開発の過程を振り返る。(後編/全2回)

帝人にとって「外科用」の医療機器は初めての開発

 先天性心疾患を持つ患者には、従来、医療用パッチによって心臓を修復・補強する手術が行われてきた。しかし、患者の成長に伴い心臓や血管が大きくなることや、体内で劣化が起きることを理由に、しばらく経つとパッチ交換のための再手術が必要となることが少なくなく、患者の大きな負担となっていた。

提供:大阪医科薬科大学(上写真)、帝人(下画像)
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 この課題を解決するために作られたのが「シンフォリウム」である。2種類の糸を使った編物に特殊なゼラチン膜をコーティングしたパッチになっており、ゼラチン膜と糸の一部は体内で自己の組織と置き換わる。かつ、残った糸から成る編み物の構造は伸張性を持つため、患者の成長に対応する。これにより再手術のリスクを減らすことが期待できるという(前編参照)。

 この製品は、2012年に大阪医科薬科大学の根本慎太郎教授が構想し、実現に向けてさまざまな企業に声をかけたところからスタート。根本氏の考えと製品アイデアに共感した繊維メーカーの福井経編興業(ふくいたてあみこうぎょう、以下「福井経編」)が、製品のコアとなる編物の技術を担うことになった。

 帝人がプロジェクトへの参加を検討し始めたのはこの後、2013年頃のこと。当時の経緯について、帝人 インプランタブルメディカルデバイス開発部の十川亮氏はこう説明する。