味の素グループ 取締役 代表執行役副社長Chief Innovation Officer 研究開発統括の白神浩氏(撮影:榊水麗)

 創業時から食品の領域で事業を続けてきた味の素グループ。実は同社には、半導体材料の製造企業という一面もある。今や世界中の高性能パソコンのCPUに用いられる絶縁材「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」は、同社が創業以来培ってきたアミノ酸の製造技術を基に誕生した。果たしてどのようなプロセスを経て生まれたのか、技術トップを務める味の素グループ 取締役 代表執行役副社長Chief Innovation Officer 研究開発統括の白神浩氏に聞いた。(前編/全2回)

1990年代の厳しい状況がABF誕生の契機に

 100年を超える歴史を持つ味の素グループ(以下、味の素)。同社の事業は、うま味調味料として知られる商品「味の素」から始まった。その原材料はグルタミン酸ナトリウム。アミノ酸の一種である。

 同社では、創業時から蓄積してきたアミノ酸のノウハウがある。それらを活用して、社会課題の解決につなげる独自の科学的アプローチを「アミノサイエンス」と定義し、さまざまな領域で事業を展開している。アミノ酸自体を使った商品開発を行うだけでなく、アミノ酸の製造時に生まれる副生成物を起点にした事業もある。

 展開先は、必ずしも食品業界に限らない。代表的な例は、同社が1990年代に開発したABFだ。CPUに使われる層間絶縁材料であり、今では全世界の主要なパソコンに広く利用されているという。半導体の高性能化が急速に進んだことに伴い、大きな成長を遂げた事業となった。

 なぜ半導体の領域に目を付けたのか。「きっかけは、当時の『化成品事業』が厳しい状況に立たされたことにあります」と、白神氏は言う。

 化成品事業は、アミノ酸のノウハウを生かして化粧品向け素材、あるいは機能性材料などを開発する事業で、1940年代からスタートした。代表的な取り組みとして、機能性材料においては、エポキシ樹脂の硬化剤や接着剤、あるいは難燃剤などがあった。

 しかし、この化成品事業が1990年代に危機に直面した。