国内トップクラスのシェアを誇る変減速機をはじめ、産業機械・建設機械など、多岐にわたる機械の製造を手掛ける住友重機械工業。同社グループは2022年9月から5カ月間、国内従業員8000人に対して「DXリテラシー教育」を実施した。ただし、社員が知識を学んだだけではデジタルを業務に“使う”動きにまで発展しない。そこでこの取り組みではいくつかの仕掛けを施したという。担当した住友重機械工業 人事本部 人事戦略部 人材開発グループ 兼 人材育成センター 兼 技術本部 開発戦略推進部の中島聡氏と、同ICT本部 DX推進部の西村卓也氏に聞いた。
データ活用とは遠い事業だからこそ、思い切ったDX教育が必要だった
——「DXリテラシー教育」では、どのようなことを行ったのでしょうか。
中島聡氏(以下敬称略) 国内グループ従業員8000人に対してeラーニングを使ったDX教育を実施しました。当グループはグローバルに24000人の従業員がいますが、そのうち業務にパソコンを使わない工場従事者以外の国内従業員全員が行った形です。社員だけでなく役員も実施しました。1人6〜10時間の学習プログラムで、2022年9月から5カ月かけて全員が受講しました。
西村卓也氏(以下敬称略) 学習プログラムは世に出ているものの中から選びましたが、DXを体系的・網羅的に学べる内容にこだわりました。DXとは何かという基本的なところに始まり、DXプロジェクトの進め方やDX推進における各部門の役割なども学べるものです。当社がBtoBの製造業であることも考慮して内容を選定しました。
中島 eラーニングに加えて、期間内には受講者全員にDXアイデアを出してもらいました。合計9000件以上のアイデアが提出され、事業部門別に幹部報告会を開き、その内容を報告しました。いつくかのアイデアは実現に向けて動いています。
——8000人のリテラシー教育、さらに全員がアイデアを出すという施策に至ったのは、DXに対して強い危機感があったからでしょうか。
中島 これまでデジタルが事業を引っ張るという考えは強くありませんでした。当社のDXに対するリテラシーは高くなかったと言えます。
私たちの事業はBtoBかつ、一品モノや細かくカスタマイズして作る製品が中心です。BtoC企業や量産品を多く抱える企業なら、業務を通して収集できるデータの活用に目が向きますが、当社のビジネスではその視点が持ちにくかったのです。外部環境の面でも、円安などの影響で、業績不振のような危機感が醸成されにくい状況が続いていました。
何より当社は技術力で成長してきた会社です。社員の中には「良いモノをきちんと作れば売上につながる」という強い自負がありました。そもそもの社風からして、デジタルを事業や業務プロセスに取り入れる感覚が広まりにくい環境だったのです。
西村 私の所属するICT本部は、全社のDX推進を担う組織として2021年に発足しましたが、立ち上げの理由もこれらの危機感からでした。
もともと私は技術部門で研究開発を行っており、その中で「ICT活用推進プロジェクト」という取り組みをリードしていました。一例を挙げれば、製品にセンサーをつけてデータを収集・分析し、価値を生み出すといったものです。しかしこの時点で当社には全社的なDX組織がありません。グループ全体のDXを推進するにはその旗振り役となる組織が必要です。そこで何人かの社員とともにICT本部に異動し、同本部内にDX推進チームを立ち上げました。
中島 デジタル教育も、それまで一部の技術者には実施していました。私も今は人事本部にいますが、もともと西村と同じ組織にいた技術屋の1人であり、技術者向けのデジタルを含む技術研修を担当していました。その経験を基に全社で人材の育成を行うことになり、人事本部配属になったのです。現在は技術部門と兼務しています。
——今回のDXリテラシー教育の取り組みは、ICT本部と人事本部で担当したのでしょうか。
西村 2つの本部が一体となって進めてきました。DXは全社的な話で、育成だけでなく組織や文化づくりなど、あらゆる要素が関係してきます。人材開発や組織開発を行う組織とも一緒に、連携しながら行ってきたのです。
中島 この仕事は人事、この仕事はICT本部と役割を明確に分けることはできません。DXリテラシー教育に関する連絡や報告も、必ず連名で出しています。「DXリテラシー教育事務局」という名前の下に、ICT本部、人事本部それぞれの担当者の名前が入っています。西村とも毎日のようにやりとりしていますし、だからこそDXの全体方針から人材育成まで、お互い同じ思いを共有できているのです。