輸送機器、エネルギー、産業設備、レジャー、最近では自動PCR検査ロボットといった領域まで多様な製品やサービスを提供する、自他共に認めるコングロマリットの川崎重工は、同社の存在意義であるグループミッション「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する"Global Kawasaki"」を可能にするために、ミッション直下にサステナビリティ経営方針を制定している。この経営方針に向けての具体的な施策は多々あるが、今回はカーボンニュートラルに大きな影響を及ぼす同社のアグレッシブな施策を紹介したい。それは「水素」だ。

なぜ川崎重工は水素なのか

−−川崎重工は、日本のエネルギー基盤として水素の大量製造に取り組んでいるそうですが、それはなぜ、そして具体的にはどういった方法なのでしょうか。

西村 元彦/川崎重工業 執行役員 エネルギーソリューション&マリンカンパニー プレジデント

1987年川崎重工に入社(2003年東京工業大学 工学博士 学位取得)、原子力・火力発電の熱および燃焼技術にかかわる開発・設計に従事。課長・部長時代には、量産大型スポーツモーターサイクルとしては世界初の機械過給エンジン搭載モデルである世界最速のNinja-H2R/H2の開発に携わる。2010年より水素関連の技術開発、2013年からは水素プロジェクト部長として水素事業開発に携わり、世界初の「日豪水素サプライチェーンパイロット実証」をリード。2021年より執行役員 水素戦略本部副部長に就任し、2023年より現職。
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好きな言葉:「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」
注目の人物:「ハイエンドコンピュータなどをここまで発展させてきた、多くの技術者や各社の人たちに敬意を表したいと思っています」
お薦めの書籍:『はじめての哲学的思考』(苫野一徳著)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎ほか著)、『ローマ人の物語』(塩野七生著)

西村元彦氏(以下敬称略) 1997年の京都議定書が制定した、温室効果ガスの削減は2008年から始まりました。2012年までに先進国全体で温室効果ガスの5%以上削減を目指すもので、当時は“低炭素社会”と言われていました。当社は、飛行機、船、建設機材、発電用ガスタービンなど、大型でかつ化石燃料を利用しているものが多い。これらの脱炭素化には、化石燃料でなく水素で回すことが一番と考えました。

 しかしそのためには大量の水素が必要です。ただ当時は「再生可能エネルギー(以降、再エネ)で水を電気分解し水素を作って持ってきます」と言っても、誰も信用しなかったんですね。値段も高いし、量も限られている。第一「水素で大きなものが動かせるのですか」という風調でした。

 そこで大量かつ安価な水素源を世界中で探しました。するとオーストラリアの未利用資源、褐炭が候補に挙がりまして、これが非常に安価である、ならばこれに取り組もうとなった経緯が当時の記録として残っています。その後、2010年4月末には、オーストラリアの褐炭を利用して水素を製造し日本に持ってくる、というサプライチェーン構想を当時の中期経営計画で公表しました。まずコンセプトを社会にドーンと公開して、これからやります! と宣言。コンセプトドリブンの形でスタートし、今日に至っています。

同社、水素事業戦略の解説資料より。褐炭とは若い石炭で世界に広く分布している低品質の石炭。乾燥すると自然発火しやすくいため、海外取引が皆無という安価な資源だ。 川崎重工のコンセプトは、褐炭を活用して水素を製造し、それを液化して日本へ海上輸送するというもの。 褐炭の製造時で生じるCO2は、分離・回収し地中深く貯留することでCO2排出量を大きく削減できる
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 褐炭由来の水素は、製造工程でCO2が排出されますが、回収・貯留することでCO2排出を実質ゼロにできます(ブルー水素)。ブルー水素は、再エネで作るグリーン水素より環境負荷が高いのではという声がありますが、みずほ情報総研の資料では、水素の製造、輸送・貯蔵、充塡(じゅうてん)の工程を考えると、当社のブルー水素はグリーン水素に負けないくらいCO2の排出量が少ないという報告があがっています。ちなみにオーストラリアの褐炭は日本の総発電量の240年分あると言われています。

水素1N㎥あたりの温室効果ガスの排出量。ブルー水素のCO2排出量はグリーン水素並みにCO2低排出という
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オーストラリアのラトローブバレーにある、褐炭炭鉱の様子
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