輸送機器、エネルギー、産業設備、レジャー、最近では自動PCR検査ロボットといった領域まで多様な製品やサービスを提供する、自他共に認めるコングロマリットの川崎重工は、同社の存在意義であるグループミッション「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する"Global Kawasaki"」を可能にするために、ミッション直下にサステナビリティ経営方針を制定している。この経営方針に向けての具体的な施策は多々あるが、今回はカーボンニュートラルに大きな影響を及ぼす同社のアグレッシブな施策を紹介したい。それは「水素」だ。
なぜ川崎重工は水素なのか
−−川崎重工は、日本のエネルギー基盤として水素の大量製造に取り組んでいるそうですが、それはなぜ、そして具体的にはどういった方法なのでしょうか。
西村元彦氏(以下敬称略) 1997年の京都議定書が制定した、温室効果ガスの削減は2008年から始まりました。2012年までに先進国全体で温室効果ガスの5%以上削減を目指すもので、当時は“低炭素社会”と言われていました。当社は、飛行機、船、建設機材、発電用ガスタービンなど、大型でかつ化石燃料を利用しているものが多い。これらの脱炭素化には、化石燃料でなく水素で回すことが一番と考えました。
しかしそのためには大量の水素が必要です。ただ当時は「再生可能エネルギー(以降、再エネ)で水を電気分解し水素を作って持ってきます」と言っても、誰も信用しなかったんですね。値段も高いし、量も限られている。第一「水素で大きなものが動かせるのですか」という風調でした。
そこで大量かつ安価な水素源を世界中で探しました。するとオーストラリアの未利用資源、褐炭が候補に挙がりまして、これが非常に安価である、ならばこれに取り組もうとなった経緯が当時の記録として残っています。その後、2010年4月末には、オーストラリアの褐炭を利用して水素を製造し日本に持ってくる、というサプライチェーン構想を当時の中期経営計画で公表しました。まずコンセプトを社会にドーンと公開して、これからやります! と宣言。コンセプトドリブンの形でスタートし、今日に至っています。
褐炭由来の水素は、製造工程でCO2が排出されますが、回収・貯留することでCO2排出を実質ゼロにできます(ブルー水素)。ブルー水素は、再エネで作るグリーン水素より環境負荷が高いのではという声がありますが、みずほ情報総研の資料では、水素の製造、輸送・貯蔵、充塡(じゅうてん)の工程を考えると、当社のブルー水素はグリーン水素に負けないくらいCO2の排出量が少ないという報告があがっています。ちなみにオーストラリアの褐炭は日本の総発電量の240年分あると言われています。