毎年約100名の新入社員を、AIやIoTの学習に2年間集中させる-。2017年12月、ダイキン工業はデジタル人材を育成する社内大学「ダイキン情報技術大学(以下、DICT)」を立ち上げた。今でこそ、自社社員を対象にAIスキルを身につけさせようとする企業は現れてきているが、当時、会社の教育制度として社員にAI教育を施す企業はほとんど存在しなかった。ダイキンの取り組みは異例であり、先駆けだったといえる。

 はたしてこの社内大学ではどんな教育を行ってきたのか。もちろん、立ち上げから現在までに“変えた部分”もあれば、いま新たに直面している課題もある。それらは社内AI教育を進める他の企業においても、何らかの示唆になるかもしれない。DICTを中心としたダイキンのDXの舞台裏に迫るこの特集、第2回となる本記事は、約6年間におけるDICTの軌跡を追っていく。

試行錯誤を経て行き着いた「修了生」による教育

 淀川のほとりにたたずむ、大阪府摂津市のダイキン テクノロジー・イノベーションセンター。ある日、ここでDICTの講義が行われていた。大きな円形講義室に集まり、黙々と課題をこなす生徒たち。それを教壇から見守るのは、生徒たちとそれほど年齢の変わらない若い青年だった。彼自身も、かつてDICTに在籍していた“修了生”であり、現在は教える側でいくつかの講義を受け持っているという。

 DICTでは、こうした形で修了生が多くの授業を担当している。それも、ダイキンの事業や製品といった“社員にしか教えられない領域”を任せられているのではなく、AIやデジタルの基礎知識を教えているようだ。

 それならば社員以外でも教えられる。実際、大学の立ち上げ当初は、外部講師を中心にこれらの講義を行っていた。しかし、6年の間に内製化にも取り組んだという。

「多くの講義を外注する中で感じたのは、さまざまな科目で違う講師の方に来ていただいても、結果的に講義内容が似てしまうケースが多いことでした。自前で運営しているので、カリキュラムの中で講師ごと明確に役割を区切るのは、難しかったためです。そこで3年目から、修了生を講師として呼ぶことも始めました。修了生が講師となることで知識や人間力をより磨く効果も感じています」

ダイキン テクノロジー・イノベーションセンター主任技師の下津直武氏(撮影:川口紘)

 こう話すのは、DICTの運営を担当するダイキン テクノロジー・イノベーションセンター主任技師の下津直武氏。修了生の中から、知識が十分に高く、なおかつプレゼンや伝えることが得意な人材を選抜して講師役を依頼しているという。

「毎年100人も修了すれば、その中に教えるのが得意な人はいるものです。コストダウンもありますが、それ以上に教えられた人間がその内容を下の世代に教える方が良いと考えました。どの知識がその後の業務で重要になるのか、どこで学習につまずいたか、身をもってわかっていますから」

 とはいえ、AIの新しい技術やトピックは修了生の弱い分野でもある。そこでこの領域は、AIスタートアップのプリファードネットワークスからダイキンに移った比戸将平氏(※後日公開の第4回記事に登場する)や、ダイキンと包括連携協定を結んでいる大阪大学の教員など、外部の専門家によって補完している。

 講師だけでなく、DICTの運営メンバーにも修了生が加わっている。2年間の“学生時代”の様子をふまえ、面倒見の良さやサポート力をもとに人選する。「修了生がお兄さん・お姉さんになって支えています。私のようなお父さんはもういらないかもしれません」。下津氏は和やかな表情を見せる。