生成AIが世界のビジネスシーンに浸透し始めている。その一方で、信頼性やプライバシーに関する課題は依然として残されており、企業ごとに対応方針が大きく分かれている。私たちは今後、生成AIをどのように捉え、どのように活用するべきなのだろうか――。デジタル技術の研究開発に半世紀前から携わり、文理融合の観点からデジタル文明の行方を探ってきた情報学者、東京大学の西垣通名誉教授は、著書『デジタル社会の罠 生成AIは日本をどう変えるか』(毎日新聞出版)で、生成AIの本質を歴史的・思想的な観点から解き明かしている。前編となる今回は、AIの特徴と弱点、AI活用を進める上でのポイントについて聞いた。(前編/全2回)
■【前編】東大・西垣名誉教授がブームに警鐘、生成AIを信用してはいけない2つの理由(今回)
■【後編】AI時代の文化論、日本人はなぜ心の底で「AIが人間を超える」とは信じないのか
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「デジタル技術の負の側面」にも目を向けるべき
――昨今、チャットGPTを始めとする生成AIが脚光を浴びる中、多くの企業が生成AIの活用を進めています。そうした中で、著書『デジタル社会の罠 生成AIは日本をどう変えるか』(毎日新聞出版)では、生成AIブームに警鐘を鳴らされていますが、どのような理由があるのでしょうか。
西垣通氏(以下敬称略) 私はこれまで約50年間、ICTやAIといったデジタル技術の研究・開発に携わってきました。1970年代には日立製作所でコンピュータ研究開発に従事し、80年代にはスタンフォード大学の客員研究員として最先端のAI技術を学びました。その後に大学教員となり、90年代以降はフランスでの在外研究を含め、文理融合の観点からデジタル文明の思想的・学術的研究を続けてきました。
そうした私の視点から見ると、最近の日本でのデジタル技術やAIの捉え方は表層的だと感じることがあります。技術の細部への関心が強く、「手っ取り早く便利な技術を活用するにはどうしたらいいか」といったことばかり目が向けられ、本質を捉えていないように思えるのです。
デジタル技術やAIを社会インフラとして活用し、社会の発展に役立てるためには、技術的・実用的な側面だけではなく、文化的・思想的な側面の理解や洞察が欠かせません。
これは決して一方的に現状を批判しているわけではなく、私自身が若い頃、技術的・実用的な面にばかりに関心が向いていたことの反省を踏まえた考えです。その意味で、過去の自分に対する問題意識ともいえます。
そこで本書では、私自身の実経験を踏まえながら、大局的・歴史的・思想的な観点から「デジタル技術の本質とは何か」「私たちは、AIとどう向き合えばいいのか」といったテーマについて記しています。また、本書を通じて「なぜ、日本社会はデジタル化に乗り遅れてしまったのか」「現状を乗り越え、未来に向けてどのようにデジタル化に取り組めばいいのか」といった問題意識を皆さんと共有したいと考えています。