工場で部品を作っていた社員が、複合機のデバイスソフトウエア開発者に──。大手精密機器メーカーのキヤノンはソフトウエア開発者を“自前”で育成している。その中核を担うのが2018年に設立された「Canon Institute of Software Technology」(以下「CIST」)だ。CISTでは製造現場の社員や事務系社員などの“非IT人材”をたった4カ月で、現場で通用するソフトウエア開発者に生まれ変わらせているという。一体どのような研修を行っているのか。デジタルビジネスプラットフォーム開発本部 部長の高美誠氏と人事本部人材・組織開発センター 課長の石川慎也氏に話を聞いた。(後編/全2回)
IT知識ゼロでもアプリ開発者になれる?
――キヤノンではソフトウエア開発者を自前で育成しています。なぜソフトウエア開発者を外部から採用せずに社内で育て上げる必要があるのでしょう。
高美誠氏(以下敬称略) キヤノンが手がける製品・サービスに搭載されるソフトウエアの数が膨大に増えているからです。カメラなどの消費者向け機器はもちろん、製造現場でもAI・IoTを活用した製造現場での生産革新、ビジネスのデジタル化が進んでいます。
こうした環境では、ソフトウエアの開発スピードを上げていかなければ、競争に勝っていけません。ソフトウエア開発者の「量」と「質」の双方を追及していく必要があるのです。
――前編でデジタルビジネスプラットフォーム開発本部の飯島本部長が話していた通りですね。CISTで行われている、ソフトウエア技術者への職種転換研修(以下、ソフト職種転換研修)はどんな内容なのですか。
高美 1クラス18人以下の少数精鋭で、授業と演習を4カ月間行います。研修修了後は、各事業部で実際にソフトウエア開発者として社内転職します。研修を担当するのは、キヤノンでの経験が豊富なベテラン技術者です。
石川慎也氏(以下敬称略) ソフト職種転換研修は2015年からスタートしました。CISTが設立された2018年以降、研修の修了生は延べ約190人になります。この研修の修了生を受け入れる事業部からは「ソフト職種転換研修卒業生の貢献度は高い」という声が挙がっています。エンジニアとしての経験がゼロでも十分現場で通用するような研修になっていると自負しています。
――ソフトウエア開発経験のみならず、エンジニアとしての経歴が全くない社員も受け入れているのですね。非IT人材がすぐ即戦力になれる秘訣はあるのですか?